弘前と前川國男 - 4: 
弘前市民会館 - 2
(弘前、青森、日本)

ホール棟に入ると、ポーチの低い天井をそのまま延長した1階ロビーが、広がります。藍色に塗られた天井も相まって、少し暗めの広い空間に変化を付けるのが、2階から下りて来る大階段。誘われるように、ゆるくカーブする階段を上って行くと、抑えられた1階とは対照的な、天井の高い、弘前公園の緑に大きく開いたメインロビーが現れました。

上昇して行く高揚感と、緑がだんだんと視界に入って来るシークエンスのつくりは、開演前の気分を盛り上げます。梢の高さにあるロビーは、緑の中に浮き、昼間は特に、公園の中という贅沢なロケーションを、そのまま空間にした気持ちよさです。

ロビーでも、色が競演しますが、こちらは、コンサートというハレの場を意識したのか、赤の印象が強くなっていました。

ホールの内部は、一転して、木の質感に満ちた空間です。コンクリートそのままの内壁に、合板を曲げ加工した反響板を取り付けています。音響の良さで有名な、同じく前川国男設計の神奈川県立音楽堂の音響を担当した石井聖光によるもので、コンクリート表面には、吸音板も施さず、反響板とその背後のコンクリートの間の隙間で、音響のバランスを取っていますが、こちらも、響きのよさで、音楽関係者の評判がいいそうです。

ポーチから、会議室棟、ホール棟まで、高価な材料に頼らず、ローコストでつくられているのに、これだけ魅力的な建築に仕立てた前川国男の力量に敬服。というより、前川国男は、ローコスト建築にこそ、本領を発揮する建築家だったのかもしれません。

オリジナルの色を大事にして来たことからも窺えるように、特筆すべきは、市民に大事にされていること。会議室の家具もオリジナルのままですし、変な改装もありません。

建設当初こそ、青森で初めてに近い打放しコンクリートに批判が起きましたが、それもしばらくすると消え、今に至るまで、弘前のいちばんのホールとして市民に愛されています。近年は、大きなコンサートは、青森にできたホールに行くことが多いそうですが、市民の発表会や活動の利用が高く、夏の一時期を除けば、月に4、5日空いているかどうかの稼働率を誇ります。

驚くべきは、ホールのフライングタワーの仕掛けが機械化される2011年度まで、50年間、公演のたびに、12人のスタッフが手動で緞帳や照明、幕の上げ下げを行っていたということ。オリジナルの装置さえも、ここまで大事に使われていたとは、ほんとうに建築家冥利につきます。

半世紀前の完成ですが、耐震診断でも、煙突以外は、まったく問題なしとの結果が出ました。弘前市は、2011年に、煙突とホールの設備を改善し、この先、50年利用し続けることを目標としています。

これには、理由があって、弘前公園全体が、史跡に指定されているため、文化庁が、現状の建物の使用は認めるものの、大規模な改築や、新築は一切認めないことによります。文化庁の方針は、一般論として間違ってはいませんが、個別の事情への配慮も欲しいところ。なんて言ったって、弘前文化会館は、文化財に指定されてもおかしくない日本の戦後を代表する現代建築なのですから。

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交通
弘前駅から駒越、四中校、弥生、枯木平方面行きバスで20分、市役所前公園入口で下車。または、土手町循環バスで20分、市役所前下車。徒歩5分。日中は頻発。

リンク
弘前市役所

弘前観光コンベンション協会
弘前総合情報RIng-O Web

宿泊施設のリスト
弘前市旅館ホテル組合

参考文献
"前川國男と弘前" (A haus2005年1月号、A haus編集部、2005)
"建築家前川國男の仕事" (美術出版社、2006)
木村産業研究所展示

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弘前市民会館 ホール棟(1964)

        Photo by Daigo Ishii