弘前 和と洋の融合
日本聖公会弘前昇天教会
日本キリスト教団弘前教会
(弘前、青森、日本)

弘前には、キリスト教関連の建築が多く残りますが、中でも、教会は、機能の上でも、西欧文化の色濃い建築です。それが、この地に根付くとき、地元の建築文化とどのように折り合いを付けたのでしょうか。

最初は、弘前昇天教会。

ゴシック調の煉瓦造の建築は、宣教師シャーリ・H・ニコルの指導のもと、後に立教大学の校長となったJ・M・ガーディナーの設計で1921年(大正10年)に建設されました。つましいながら正統的な雰囲気なのもそれ故か、日本化からは遠く、触手は動きませんでした。とは言うものの、ドアが開いていたので、ちょっと入ってみましょうか。

ドアを入ると、先ず、沓脱場。ふつうの教会で見掛ける付屋の空間です。しかし、ドアを開けて入った次の部屋には、虚を突かれました。

左右の壁は、表から見えたヴェネアンゴシック風の窓が並びますが、正面には、大きな白い襖が立ち、襖の上には長押が通り、それがそのまま煉瓦の壁にぶつかっているのです。正面に限れば、書院風のつくりで、襖の向こうは、畳の客間でしょうか?。

しかし、見回しても、キリスト像もマリア像も見当たりません。プライベートな部屋だったらどうしようかと迷い、一応、声を掛けてみたものの、返事がないので、思い切って、襖を開けてみました。また驚きです。襖の向こうは、大きな礼拝堂だったのです。

ヨーロッパかアメリカ東海岸の寒村でも通用しそうな教会ですが、唯一、中央に和風の間仕切りを挟んだことで、西欧の空気に浸ろうとしているのに、日本に引き戻されるような感覚が生まれています。

ただし、和と洋が融合したというよりは、和と洋が唐突に同居していると言った方がしっくり来ます。

次は、日本基督教団弘前教会。

1875年(明治8年)、東北最古のプロテスタント教会として生まれ、現在の建物は、1906年(明治39年)に、桜庭駒五郎の設計、堀江佐吉の4男、斉藤伊三郎の施工で完成しました。ただし、その後、火災に遭っているようです。

遠くから見ると、双塔を持つネオゴシックの石積みに見えましたが、実際には、横張りの板と底目地で、石造風にデザインしているだけ。パリのノートルダム大聖堂がモデルです。

入口を入ると、ここも沓脱場ですが、次の間への建具が、すでに襖です。ドアにしないのは、技術の問題なのか、文化の問題なのか。昇天教会同様、4本引なのは、対称性の強い教会空間に配慮した結果でしょうか。

襖の向こうには、高いドーム天井の礼拝堂が広がっていました。装飾も控え目で、腰部の濃い木部と、上部の白い壁が、謙虚で、清潔な空気をつくり出しています。懐かしい擬西洋建築の空気も漂い、昇天教会に比べると、襖の唐突感は弱まります。

見落せないのが2階広間。通路から、縁側のように大きく一段上がる設えが、もう日本的。3間に分かれた部屋は、畳の信者席で、白い襖で仕切っています。窓も、和風ではないものの、地味で、畳との違和感はありません。畳に座り、礼拝堂を眺めると、頼母子講の場にでも来たようです。その身近な感じが狙いでしょうか。

そして、もう一つ見逃せないのが、窓と2階床の取り合い。中に入って、初めて気が付きますが、高く伸びる縦長のガラス窓は、実は、2階床に掛かり、外から見ると、ガラスの後ろに、無造作に床の影が映っているのです。

ある意味、現代建築の納まりですが、実際には、使い勝手から決まった2階建の間取りと、イメージから必要だった高い窓の外観を、擦り合わせず、そのまま一つにしたと言えそうです。

襖も、ガラス窓にぶつかる2階床も、新しい文化としてやって来た西欧建築を、和風の伝統の場で受容する際に、操作せずに、むき出しに接合することで応答した例でしょうか。

ためらいもないつなぎ合わせを見ると、明治の大工にとって、西欧の様式とは、和に対立するものではなく、それまで中国から幾度も到来し、日本の伝統的建築に取り込まれ、融合して行った建築様式と同じ感覚だったのではないか、と思えて来ます。それを唐突に感じるのも、和と洋を対極的なものと見なす構図も、後の時代の幻想なのかもしれません。

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交通
弘前昇天教会:弘前駅から桜ヶ丘、久渡寺、弥生、枯木平方面行きバス、または、土手町循環バスで10分(日中は頻発)、土手町十文字下車、徒歩5分。

日本基督教団弘前教会:弘前駅から桜ヶ丘、久渡寺、西目屋、相馬、岩木方面行きバス、または、土手町循環バスで20分、下土手町下車(日中は頻発)、徒歩5分。

リンク
弘前市役所

弘前観光コンベンション協会
弘前総合情報RIng-O Web

青森県観光情報サイト
あおもりの文化財
文化遺産オンライン

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日本聖公会弘前昇天教会 (1921)

日本キリスト教団弘前教会 (1906)

        Photo by Daigo Ishii