青森の森を抜けて - 八甲田から十和田へ:酸ヶ湯温泉
(青森、青森、日本)

冬の盛り、ニュースや情報番組で、「こんなに雪が積もっています」と頻繁に取り上げられる酸ヶ湯温泉。年間の平均降雪量は1760cmで、これまでの最高積雪量が566cm。人が常住している場所としては、日本で雪がもっとも積もるということは、世界でもっとも雪の積もる定住地の可能性もあり、酸ヶ湯のニュースは、日本の冬の風物誌というよりは、今や世界の冬の風物誌かもしれません。

青森駅からバスに乗り、青森市街を抜け、山に入ると、両側に、ブナ林が現れます。途中、城ヶ倉温泉のホテルとロープウェーを除けば、人工物は一切現れず、時折、林の切れ目から八甲田山が見える他はブナ林だけ。バスの車窓に座っていると、動く森林浴のようです。そんな道を、延々と上ること70分、酸ヶ湯温泉が現れました。冬は、積雪のため、すぐ上の八甲田ホテルから、十和田市側の蔦温泉近くまで、道路も閉鎖されます。

酸ヶ湯が発見されたのは、貞享元年(1684)のこと。その後、温泉の回りに小屋ができ、その小屋主の5家が協力して、今の酸ヶ湯の原型ができました。湯治場から始まり、旅館も併設して、今に至ります。津軽平野の農家では、農閑期の湯治は、岩木山の麓の嶽温泉か酸ヶ湯温泉かというぐらい、地元の信奉の篤い温泉です。

長い間、冬季は閉鎖していましたが、昭和29年(1954)、経営者が、国鉄、現在のJRから除雪車を買い入れて、冬季営業が始まりました。そして、「国民保養温泉地第1号」の指定を受けたのも同じ年。

しかし、その冬期営業が大きな風評被害にあった時代もありました。映画「八甲田山」の公開された1977年からしばらくの間のこと。八甲田山での雪中行軍の演習中に、陸軍の軍人199名が死んだ事件を映画化し、大ヒットした「八甲田山」の影響は大きく、そんな冬の怖い場所には行けないと、客足が極端に落ち、冬場、日に数人しか客のいないことも多かったそうです。マスメディアの影響のすごさです。

しかし、それを挽回したのも、また、マスメディア。ニュースで、毎年のように、日本一の積雪量が報道されるようになると、それが大きな宣伝となり、今では、冬も満室が続くようになりました。

酸ヶ湯の魅力は、総ヒバ造りの大浴場「ヒバ千人風呂」と鄙びた湯治場の雰囲気を残す客室部分。ロビーは、新建材や木目調クロスで改修されているのが、少し残念ですが、「千人風呂」を目にすれば、すべて忘れます。大きさは、160畳ほど。三方を窓に囲まれ、床も壁も板張りで、湯気で茶色に濡れ、そこに、熱湯、冷の湯、四分六分の湯、湯滝の源泉の異なる4つの温泉が用意されています。その巨大な浴槽もまたヒバ。風情が増します。

「千人風呂」とは言うものの、実際には、80人で一杯とのことですが、それでも、日本有数の大きさ。秋を過ぎると、外との気温差で、室内は湯気で朦朧として、もっと大きく感じます。混浴で有名ですし、女性専用の時間帯も設けていますが、秋から冬に限れば、湯気で視界が開けず、問題ありません。

泉質は酸性硫黄泉。白濁として、すべすべしています。源泉からここまで引く間に、適温になるのか、長く浸かっていても、心地よいこと。場内は硫黄の匂いに包まれ、湯から上がると、身体からも、硫黄臭が立ち昇り、効能を実感します。

ただ、硫黄の強さは、従業員の車もすぐ駄目にし、客室のテレビの寿命も、1−2年。さらに、川の上に建っているので、湿気で傷みやすいものの、国立公園内のため、建て替えもできません。しかし、雪に、硫黄に、湿気という過酷な条件にもかかわらず、歪みながらも、それをしっかりと受け止め、長い間生き抜きいて来た木の空間の迫力が、この温泉の魅力なのです。

八甲田山のアスピリンスノーが、近年、外国人を引きつけていますが、欧米系の客は、同経営の八甲田ホテルではなく、ほとんどが酸ヶ湯温泉を選ぶそうです。風土を映し出した、ここでしか出会えない温泉の空間故なのでしょう。

さて、湯から上がろうとして、張り紙に気がつきました。湯に浸かった後、「冷水を掛けると中心部が元気になります。」とのこと。どうぞ、お元気に。

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交通
青森駅からバスで70分。

リンク
酸ヶ湯温泉旅館場

青森市役所
青森市観光情報サイト

青森県観光情報サイト

宿泊施設のリスト
青森市旅館ホテル組合

参考文献
酸ヶ湯温泉旅館場

"青森県の歴史散歩" (青森県高等学校地方史研究会編, 山川出版社, 2007)
"郷土資料事典 青森県" (人文社, 1998)

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酸ヶ湯温泉

        Photo by Daigo Ishii