種差海岸と蕪島 - 2
(八戸、青森、日本)

種差海岸の散策の終点は、蕪島です。

蕪島の手前で、北に向かっていた海岸線は、大きく西に曲がり、それとともに、工業地帯の沿岸風景が、大きく現れます。この鮮やかな切り替わりが、八戸らしい風景です。

工業地帯の端にあたるこんな場所ですが、蕪島は、日本有数のウミネコの繁殖地で、その数、3万羽。国の天然記念物にも指定されています。と言っても、人から切り離された小島でも、断崖絶壁でもなく、永仁4年(1269)に勧進した厳島神社が置かれ、人との距離がきわめて近い、というか、参詣の人の行き来するすぐ脇、手の届く距離で営巣している場所です。

大正8年(1919)に橋が掛けられ、後の埋め立て工事で、陸続きとなりました。その後、港が建設され、島に海軍の軍事施設が置かれたこともあって、第2次世界大戦中には、アメリカ軍の爆撃を受けた場所でもあります。

遠くから見る姿でも、山肌を白く埋め尽くし、上空を旋回するウミネコは見物ですが、いざ、神社の石段の足元にある鳥居に立つと、間近に飛び交い、横切り、石段を占拠するウミネコに、上るのをためらうほどです。特に、島の裾を囲うフェンスの最上段に、何百羽ものウミネコがみじろぎもせず、一列に並んでいるのを見ると、ウミネコに悪意があるというよりは、ヒッチコックの「鳥」が植え付けたイメージがあまりにも強烈すぎたのでしょうが、あのラストシーンの、蝟集する鳥の気味の悪い静けさを思い出して、少し不安を覚えるのです。

もちろん、それは杞憂で、ここのウミネコは、人の往来にも我関せずで、境内に置かれた箱の中で卵を温め、のぞきこんでも、威嚇的になることもありません。実際には、鳥こそが人を怖れているのがほんとうのところでしょうし、蕪島在住の同じウミネコも、少し離れた海岸では、彼らが群れる渚の中に入って行くと、ふつうに飛び立って行きます。それが、この神社の境内だけは、そういう一般的な鳥の習性を捨てたかのように、人に反応しません。

ウミネコは、魚の群れを知らせることから、神社の祭神である弁財天の使いとして、漁師に大切にされて来たそうですが、その800年にわたるお付き合いにより、この聖域では、人が自分たちに手を出さないことを理解し、順応したのでしょうか。不思議です。

この鳥の迫力と言い、人慣れした様子と言い、ヒッチコックの「鳥」のリメイクを日本でやるなら、舞台は八戸に決定ですね。

(補足)残念なことに、この文章を作成したまま、アップロードをしていなかった間、2015年に、神社本体は焼失し、現在、再建に向けた活動が行われています。

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交通
八戸駅からJRで30分(1時間に1本程度)、鮫で下車。蕪島まで徒歩30分。

リンク
八戸市役所
八戸観光情報
八戸観光コンベンション協会

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八戸市の宿泊施設

参考文献
青森県史, 近現代の玉手箱(青森県庁)
Wikipedia

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蕪島

        Photo by Daigo Ishii