青森の屯所 - 1
(八戸、青森、日本)

身近にあると当たり前すぎて、その価値に気付かないことがあります。青森県に点在する地域消防団の番小屋、屯所も、その一つでしょう。

今は、閉鎖なさったようですが、「ねぶたん」さんが、ホームページで紹介していたのを見て、屯所建築の存在を知りました。100歳近いものもある、木造の可愛らしい建築群で、多くが、今も現役です。

遠くから訪れると、そんな現役の木造建築が多数残り、それが、これも現役の地域消防団のシステムと結び付いていることは、他でもない青森らしさに見えますが、ふだん、そばで暮らす市民や役場には、あまりにも近くにあり、見慣れた存在ゆえ、その特別さは、なかなか届かないようです。

黒石や弘前では、それでも、化粧直しをして、文化財として光を当て始めていますが、もったいないのが八戸。ソフトを司る能力がずば抜けている反面、ハードに対する関心が、他に比べ、弱く感じられる町ですが、この屯所の扱いも、然り。

八戸の中心部には、バス通り沿いに、近接して3つの屯所が立っています。妻側の棟回りを除くと、下見板張りの外壁を、どれも薄いグリーン系に仕上げた洋風の造りは、どことなく似通っています。同じ人間がデザインしたのか、続く者が最初の建築に敬意を表したのか、はたまた、発注側の監修によるものか。屯所という機能をアピールするため、共通化したフォーマットを調えた上で、個々の違いを微かにつくり出すサインとして、棟回りのデザインを行ったように見えます。推測の域を出ませんが、当時としてはかなり先進的な都市デザイン手法だったのかもしれません。

今は、どれも外壁が剥落し、老朽化してますし、十一日町と廿八日町の屯所い至っては、1階をシャッターに変えたせいで、ほとんどの人が気付かずに通り過ぎるくらい、印象が弱くなっています。それがもったいないところ。

昭和5年(1930年)に棟梁、峠舘由太郎によって建設された廿六日町の屯所は、物見台が取り壊されたのは残念としても、格子のガラス戸のおかげで、かろうじて旧状が窺えます。洋風な外観とは打って変わり、中は、和風のつくりで、車庫の棚の板戸には、墨絵が描かれ、奥には、茶の間のような和室の休憩室。こういう小さな建築にも、和と洋の融合の空気が連綿と受け継がれています。

建設時とは消防システムが変わり、今は、消防団とは別に消防署があり、火事の発見は、物見台から電話による通報に変わりました。消防団員も、八戸中心部では、全員が近くに住んでいる訳でもないようです。そうやって、時代の変化は、少しずつ、小さな古い建築の存在価値を狭めて行きます。

市内の荒町には、絵葉書を元に、棟梁が、ロシア正教の教会の玉葱屋根に似せた屯所があったそうです。かなり前に壊されましたが、これなんか、残っていれば、相当、個性的な文化財だったでしょう。近くにいると、文化的な側面は遠ざかり、使い勝手や使用価値が、存在の有無の理由になってしまうのです。

その意味では、昔は団員が寝泊まりしていた2階の広間を、町内の八戸三社大祭の山車の製作場所にした廿六日町の屯所は、存続するための現実的な一歩を見付けたようです。

内外を改修した上で、広間を地域の会所として活用すれば、消防団や町内会の存在を顕在化し、活動をてこ入れできそうに見えます。さらに、山車の製作を、観光客に公開すれば、活動に裏打ちされた古い建築が残る町として、ソフトに強い八戸らしい発信性を持つかと思うのですが。

八戸郊外に残る屯所の一つ、上永福寺の屯所は、中心部の3つの屯所とは違い、塗り替えできれいに更新され、コミュニティーの存在を顕在化します。本来は、物見台がすくっと立ち上がり、象の背に人が載ったような外観でしたが、老朽化でやむなく取り壊したそうです。2階天井には、物見台に上がる板扉が残されていました。

そこから程遠くない滝谷の屯所は、これは何というか、フィンランドあたりの木造建築の趣。鐘楼のような箱形の物見台は、物見台を妻側に寄せたせいで、頂部を水平に切った屋根とともに、西欧的な空気とバナキュラーが融合したようなデザインです。オリジナリティーからは失格としても、改修で、妻側の壁をトタン貼りにしたあたりは、現代的です。集落の曲がりくねった道のアイストップに、この屯所が佇む風景は、美しいものでした。

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交通
八戸市消防団第一分団第二班屯所+第三分団第一班屯所+第三分団第二班屯所:八戸駅からバスで20分(10分間隔)、十三日町、三日町で下車。徒歩すぐ。
八戸市消防団豊崎分団第一班屯所:八戸駅から五戸方面行きバスで15分(1、2時間に1本)、七崎で下車。徒歩5分。
八戸市消防団豊崎分団第四班屯所:八戸駅から五戸方面行きバスで15分(1、2時間に1本)、滝谷で下車。徒歩5分。

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