しもきた克雪ドーム - むつ市ウェルネスパーク
(むつ、青森、日本)

むつ市は人口6万人。県庁所在地の青森から3時間近く掛かり、鉄道幹線からも空港からも遠く外れた場所です。

そんな場所で、巨大なドーム建築のスポーツ施設は成立するのか。使う人がほとんどおらず、税金の無駄遣いの象徴なのではないか。そういう懐疑を抱き、やって来ましたが、どうやら、杞憂だったようです。

ドームの設計は、原広司+アトリエ・ファイ建築研究所と大成建設のチームによるもので、コンペにより選ばれました。

中庭を挟んで南側がドームの体育館、北側が屋内ブールの付いたスポーツジムになっています。週末ということもあったのでしょうが、ジムは、東京並みに混雑していました。職員の話では、むつ市にはこの手の本格的なジムがなかったので、かなり人を集めているそうです。この設備に、このデザインのジムには、東京でもなかなかお目に掛かれません。人口の少ない地域でも、ソフトとハードに力があると、ちゃんと人を呼び寄せるのですね。

ドームは、丁度、東北地方の夏の体育大会のフェンシング会場になっていました。中に入った第一印象は、出場チームの荷物が雑然と広がり、大会の什器設備は、お世辞にも洗練されていると言えないのに、凛とした空気が流れていたことです。これがふつうの体育館だったら、チープ感が充満していたに違いありません。

原広司さんによれば、光を通す膜構造の不可思議なドームの形は、「正方形の底面にフラットな膜を貼って、空気を入れて膨らました形(GA JAPAN 78)」で、「屋根のかかった原っぱ」をイメージしたそうです。ふわっと浮いている風船の中に入ったような、伸びやかな空間には、確かに原っぱに通ずるところがありました。その大きく包むような感覚が、凛とした空気の源の一つなのでしょう。

もう一つ理由に思えたのが、ドームの膜を受ける基壇の鉄筋コンクリートのフレーム。床から梁の上端までの高さは、5.7メートル。軽く、明るい膜構造の屋根を受けているせいで、フレームも重さが消え、鬱陶しさとは無縁です。だから、人のスケールやアクティビティーの高さを超え、ドーム全体を一つに引き締める効果を醸し出しているのに、支配的な空気は消え、節度を持って見守っているようです。

訪れたのは夏の盛りでしたが、空調を使っておらず、これだけの人がいるのに、熱気とは無縁で、思い掛けないほど、心地よい温湿度に保たれていました。風の入口は、数カ所の地上出入口とドア上の窓。出口は、ドーム上部に点々と開けられた開閉式の弁のような開口部。見た目には、内部のボリュームに比べ、数が少なめですが、高低差による煙突効果(重力換気)を、巧みに利用し、最小限の開口部で最大限の効果を実現しているようです。

明るい夏からは想像も付きませんが、雪と強風で苛酷なこの地の冬、しもきた克雪ドームは、屋外で競技練習のできない学生やグループが集まり、下北銀座と呼ばれる賑わいだそうです。

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交通
大湊駅から徒歩で15分。

リンク
しもきた克雪ドーム-むつ市ウェルネスパーク

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参考文献
"GA JAPAN 78" (A.D.A Edita Tokyo, 2006)

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しもきた克雪ドーム-むつ市ウェルネスパーク (2005)

        Photo by Daigo Ishii