アヌラーダプラの遺跡地区 - 4:
イスルムニヤ精舎
(アヌラーダプラ、スリランカ)

スリランカには、岩と結びついた寺院や聖地がたくさんあります。岩を彫って壮大な建築を出現させたインドとは違い、際立った岩の持つ聖性を、あまり損なわずに残そうとしているようにも見えます。

現存する最古の例がこのイスルムニヤ精舎です。遺跡地区の南端、平坦で起伏の少ないアヌラーダプラの地で、そこだけ、聖性を主張するかのように、4階ほどの高さの岩がぽっこりと屹立しています。

紀元前3世紀に遡る僧院が寺院の始まりです。

小堂の右横や右下には、岩に彫られた神像や象が残り(2段目左の写真)、小堂の内部には、アーチ状の優雅な壁龕がくり抜かれています(2段目右の写真)。本堂の寝釈迦も、岩を切り出したものです(四段目左の写真−塗装の塗り替えは浅草寺の援助で行われたそうです)。それらを保護するお堂が、後世つくられ、岩の頂に白いダーガバが置かれ、今の形になりました。池は、古代に築かれた大きな溜池ティッサ・ウェワから水を引いたものです。

一つ一つのレベルは高く、のんびりとした空気も悪くありませんが、長い時間の中で、場当たりで付け加えられたことも関係しているのか、全体的なまとまりに欠けています。

見方を変えれば、インドの石窟寺院のように、岩を征服し、岩を超えようとはしておらず、むしろ、岩に敬意を表し、岩に寄り添いながら、最低限の加工に止めて、少しずつつくり上げた結果が、今の姿かもしれません。

スリランカの文化には、環境との距離の取り方が穏やかな印象があります。イスルムニヤ精舎での岩との関わりは、その穏やかさが、はるか昔から続くことを示す例に見えました。

そして、それが思い起こさせるのは、日本のこと。インドと中国という強大な文化を持つ国に対して、直接つながらず、海を緩衝帯とした島国として、対峙することが、強さを和らげ、穏やかさを生むのでしょうか。

イスルムニヤ精舎の岩の上から見下ろすと、正面には、緑豊かなアヌラーダプラが広がっています。人工的なもののあまり目立たない風景は、この地が、まだ急激な開発にさらされず、昔からの時間を、ゆっくりと引き継いでいる地であることも伝えます。

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交通
アヌラーダプラまで、コロンボから鉄道で4時間半、車で5時間。アヌラーダプラの駅から3kmほど。

宿泊施設のリンク

参考文献
地球の歩き方「スリランカ」(ダイヤモンド・ビッグ社、2007)
Lonely Planet Guide 'Sri Lanka' (Lonely Planet Publication, 2006)

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イスルムニヤ精舎 (紀元前3世紀)

Photo by Daigo Ishii