コンタリーニ・デル・ボーヴォロ階段
(ヴェネツィア、ヴェネト、イタリア)

ルネサンスが人間的かどうか懐疑的ですが、ベネツィアで人間的な居心地のよさをいちばん感じた場所は、コンタリーニ・デル・ボーヴォロ階段でした。

コンタリーニ・デル・ボーヴォロ階段は、同名の宮殿に取り付いた螺旋階段。1489年にこの屋敷を購入したピエトロ・コンタリーニが、屋敷の改修とともに、1499年、当時のルネサンス様式でつくりました。当時は、こういう屋外階段を屋敷に設けるのは、ヴェネツィアでは一般的だったそうです。建設に携わったのは、ピエトロ・コンタリーニが信頼していた職人、ジョバンニ・キャンディ、あるいは、サンサルヴァドール教会を設計するためにコンタリーニ一族と接触していたジョルジョ・スパヴェントと言われています。そして、イタリア語でかたつむりを意味するボーボロの由来は、この螺旋階段の形に因み、コンタリーニがヴェネツィアに所有していた24の屋敷の中から、この屋敷を識別するために「かたつむりのコンタリーニ」と呼ばれました。

建築史の本曰く、ベネツィアを代表するルネサンス建築とのことでしたが、実を言えば、単なる建物付きの螺旋階段には、あまり期待していませんでした。しかし、見つけにくい路地奥に現れた建築は、優雅そのもの。

骨格はイストリア産の白いライムストーンで、その間を煉瓦で埋めています。ヴェネツィアのルネサンス建築でしばしば見掛ける白や色鮮やかな大理石に比べれば地味な素材使い。その質素さが、逆に、華やかな他のルネサンス建築では隠れていた、真髄を浮かび上がらせます。

木製のドームに覆われた展望台ヴェルヴェデーレを除けば、エレメントは、アーチ、柱、手摺のみ。それが、階段とロッジアでスケールを変えて繰り返されているだけ、のように見えますが、実は、アーチの高さは、第1層に対して、最上層では半分に低減。実際以上に高さがあるように見せる視覚効果です。その効果で、円柱がほっそりと感じられる上に、さらに、第1層のみ、円柱を角柱に変え、下部をかすかにどっしりとさせています。円柱の軽さが強調され、いっそう高さを感じさせます。

一方、螺旋階段の踏板を受けるのは、中央の太い円柱で、地上からベルヴェデーレの下まで、26mの高さを、1体の無垢のイストリア産の白いライムストーンで実現しています。そして、螺旋階段とロッジアの奥には、窓もあまりない煉瓦の閉鎖的な壁が、地上から最上部まで立ち上がります。あまりにもアーチが開放的で、そこから見える風景が素晴らしいために、視線がアーチの方に引き寄せられて、重々しい部分の存在に意識が向きません。

単純なようでいて、実は、人間の視覚の上で、単純かつ軽く見えるように、さまざまなディテールや構造を、巧妙にコントロールした建築で、それ故に実現した優雅さなのです。人間的かどうかは別として、ルネサンスの真髄とは、そういう風に、人間の視点を介入させて建築を成立させたところなのかもしれません。

日本の建物では7ー8階に相当する、28mの高さにあるベルヴェデーレまで上ってみます。今まで体験した螺旋階段の中で、もっとも上りやすく、疲れを感じさせない階段でした。あっと言う間に気持ちよく、サン・マルコ寺院やカンパネーレを望む展望台に到着(実際には、地上から螺旋階段の始まりまでの半階と、最上階からベルヴェデーレへの階段だけは直階段です)。機能に配慮したような階段のつくりもまた、ルネサンスの人間観の体現に思えました。ちなみに、測定すると、最上層の階段の幅は1.65m、蹴上は17cm、1段あたりの角度は18度でした。

螺旋階段からロッジアを介してつながるコンタリーニ・デル・ボーヴォロ宮殿の3階は、サラ・デル・ティントレット(ティントレットの間)として公開されています。ティントレットの作品を中心としたヴェネツィア絵画の展示には、ドゥカーレ宮殿に飾られている絵画「天国」の習作も含みます。

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交通
VeneziaのSanta Lucia駅からフェリー「ヴァポレット」でRialto C停留所まで12分。Rialto C停留所から徒歩5分。

リンク
Citta di Venezia(ヴェネツィア市)

Turismo Venezia(ヴェネツィア観光局)

宿泊施設のリスト

参考文献
The Art of the Italian Renaissance: Architecture Sculpture Painting Drawing (Rolf Toman, h.f.Ullman, 1995)
Art &Architecture Venice (Marion Kaminsky, h.f.Ullman, 2005)
ヴェネツィア (「旅する21世紀」ブック 望遠郷) (ガリマール社, 同朋社出版, 1994)
コンタリーニ・デル・ボーヴォロ階段解説板
Observatory for the Arts Venice

Arte Musica Venezia

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コンタリーニ・デル・ボーヴォロ階段(1499)

        Photo by Daigo Ishii