モーテルに泊まる
(南西部、アメリカ合衆国)

ヒッチコックの「サイコ」で大金を持って逃げるジャネット・リーが、鮮烈に殺されるのが郊外のモーテル(おっと、まだ見ていない方には、失礼)。それに限らず、映画やドラマの事件の舞台となるから、折りにつけ見ていると、モーテルへの漠然とした不安感と、それとは裏腹の興味が育ってました。

南西部旅行の前半は一人旅。前夜か当日朝、その日の調子で、行先と宿を決めましたが、高級ホテルもモーテルも、何なく確保できました。

多分、飛び込みでも全然問題ないモーテル。果たして、事件の舞台となるような場所なのか。40ドル台からのお手頃価格は、日本のビジネスホテルと遜色ありませんが、どう違うのか。

フェニックス規模の都市なら、中心でも郊外でも、より取りみどりですが、ほとんどが低層。日本のビジネスホテルが、田舎町でさえ、中層なのも不思議ですが、モーテルは、低層低密度の中西部を差し引いても、2階建が、標準のようです。車が足代わりのアメリカで、リゾートでもない宿なら、車への距離の短さが決め手なのでしょう。

外廊下型が大半で、客室同士は、奥で背中合わせにくっ付き、窓は外廊下側だけ。中廊下型の日本のビジネスホテルと対照的です。

窓のない中廊下型に、防犯上の分があると思うのは、日本人の発想かもしれません。モーテルに泊まると、外の視線にさらされた外廊下流の犯罪抑止力も実感します。アルバカーキで宿泊したホテルが、中層にも関わらず、モーテルの外廊下プランを積層していたのも、アメリカ人のローコスト流安心感に応えた結果と見ました。

そう、アンソニー・パーキンスがジャネット・リーの部屋に入ったのも合鍵ですし、思い返せば、ドラマで、事件の舞台になっても、見知らぬ人間が窓を割って押し入った例は、あまりありません。大抵、顔見知りを招き入れての犯行ですから、決して、外廊下に危険が潜んでいる訳ではないのです。

犯罪ドラマの舞台として人気が高いのは、逃亡者のコストパフォーマンスに応える料金設定と、低層で外廊下型ゆえ、出入り自由で、隠れやすく逃げやすい空間構造からなのです。他の客との煩わしいコミュニケーションなしに、孤立できる場所です。

窓を開けている部屋が皆無なのもそれ故。採光に関する法律上の開口部であって、モーテルの匿名性にとっては、仕方なく存在するものなのでしょう。冷房が苦手で、外気を入れたいがため、窓を開けてしまいましたが、そうやって、自分を見せ、相手が見えてしまった段階で、モーテル宿泊者の不文律のルールを破っていたのです。

室内は、日本のビジネスホテルの2、3倍。アメリカ人の体型を考慮しても、広いつくりです。大きな浴槽、独立した洗面台、広いベッド、仕事可能な机とテレビ、食料品貯蔵可能な冷蔵庫、そして、つねに電子レンジが装備。その上、暑い地方のせいか、プール付き。日本のビジネスホテルに籠っていたら、気が狂いそうですが、アメリカのモーテルなら、1月は大丈夫。

アメリカのモーテルを体験すると、同じエコノミーでも、日本のビジネスホテルの立ち位置が分かります。出入りのチェックが厳しく、人も招き入れられず、籠もることさえできない最小限の客室。ベッドを部屋化した眠る空間に特化しています。

犯罪ドラマの舞台に不向きなのも当然で、それに代わって発見されたのが温泉旅館なのでしょう。出入りが分かりにくく、隠れ場所や小道具も多く、打ってつけですが、匿名性や孤立に欠けるから、おのずと、起こる事件の質も情緒的になっていたのですね。

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交通
主な都市、主な幹線道路沿いに多数。

リンク ー モーテルチェーン
America's Best Value Inn
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Microtel Inns and Suites
Motel 6
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        Photo by Daigo Ishii