長寿寺観音堂(神奈川県鎌倉市)

長寿寺は、足利尊氏の菩提を弔うために、その息子基氏により創建され、往事は、七堂伽藍を備えた寺です。

境内の一郭にある観音堂は、大正11年、財政上の理由から売りに出されていた奈良の名刹円成寺の多宝塔を移築したものです。

その後、朽ち果てた上部は取り払われ、茅葺きの屋根に変わったため、一見すると、多宝塔の面影は見られませんが、宝珠には、元の多宝塔のものが使われています。

調査をした文化庁の担当者が、改変されたために文化財としての指定は難しいが、非常に素晴らしい建築だと評したとのことですが、その言の通り、小さな建物ながら、品にあふれています。

3間×3間の小さな堂は、つつましやかな外観も、風情があり魅力的ですが、扉を開くと、その鄙びた外観からは思い掛けないほど、華やいだ内観が現れます。

壁にも、漆が施されたような格天井にも、彩色で文様が描かれています。それぞれの文様のスケールは小さく、また、全体的な構図によって支配されず、空間全体に均等に散らばるように描かれています。そのため、壁と天井という部位の違いが弱まり、浮游感のある軽やかな空気に、室内全体が覆われています。その軽やかさは、時代を感じさせない清新な印象を空間に与える一方で、雲や宙を連想させ、浄土のイメージへも導いて行きます。扉の文様は、今では褪色したため判然としませんが、天女が描かれていたそうです。

堂の内部は、元々の多宝塔のままだそうです。多宝塔の内部が公開されているのを見たことがありませんが、他の多宝塔の内部にも、こんなに華やいだ空気が漂っているのでしょうか。

住所:鎌倉市山ノ内

見学:非公開

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Upload:2007.06

参考文献:長寿寺パンフレット

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Photo by Daigo Ishii