弘前 和と洋の融合:
盛美館 - 2(平川、青森、日本)
外観だけでなく、室内も見所です。
1階の客間は、庭を見る空間として、二方の縁を外に開いた開放的な造りで、和風建築と庭のふつうの関係を踏襲しています。ただし、蜘蛛の巣状に桟を組んだ、付け書院の障子や、違い棚と床の間の間の壁に刻印された文様など、オーソドックスな設えの中に、斬新な意匠を潜り込ませています。
そして、色漆喰を、赤や青の大理石状,というか、ほとんど抽象絵画の域まで磨き出した階段や厠の腰壁。朱塗りの漆の床に、色漆喰の壁の厠なんて、畏れ多くて、匂いを付けるのさえ、はばかられます。
その大理石状の色漆喰が、もっとも見事なのが、2階の夫人室の床の間です。床柱は、オーダーらしきものを頂いた円柱で、白地に藍色の筋入りです。そして、その上に掛け渡された落とし掛けらしきエンタブレチュア。下段には、円柱の地を反転させたように、藍に白の筋が浮かび上がります。それらが、部屋の灰色の壁と、床の間の、より深い灰色の壁に映えます。
夫人の部屋は、その床の間と言い、付室との間の、樹影のような形に切り抜かれた欄間と言い、後から付け加えられたアールヌーボー調の花弁型のシャンデリアと言い、和室にこれらの意匠を組み合わせた西谷市助のセンスに驚かされるばかりです。盛美館の中で、和と洋の結び付きのもっとも鮮やかな部分、というよりも、日本の近代建築の間でも、自由な意匠に満ちあふれた場所の一つではないでしょうか。
階段を挟んで、向かい合わせの主人の部屋に付くのが、この建築の外観に不思議なバランスをもたらす八角の展望室。1階の縁側に張り出した庇の上に、柱の支えもなく、載っています(写真で柱らしく見えるのは、冬の雪のための仮柱)。外から想像したよりは単調な室内ですが、青と茶の色漆喰で交互に仕上げた腰壁が現れ、少し華やいだ気分を添えます。
見下ろす角度になるため、1階から見る日本的な庭の見方とは対照的ですが、ここもまた庭を見る場所。眺めを干渉する凝った意匠までは必要なかったのです。
展望室に立つと、庭園の中央奥に、梢を低くして取り入れた、津軽平野の借景が、いっそうはっきりと現れます。ご当主の話では、ここから、稲の様子も見たのではないか、とのことですが、1階からの哲学的な眺めに対して、2階からの庭の眺めというのは、気候の様子など、自然を、大局的に、プラグマティックに見るものだったのかもしれません。
さぞかし、子供の遊び場となっていたか、と思えば、子供時代、簡単には入れる場ではなかったそうで、主人が、家族からも、日常からも離れて、物事と向き合う、自分だけの思索の瞬間が、ここにあったのでしょう。
今は、梢に隠れて見えませんが、展望室からは、左手に岩木山も見えたそうです。この地の場の力が交差する空間でもあったのです。
余談
盛美館に隣接した離れに、清藤家の位牌堂、御宝殿が保存されています。元は、道を挟んだ、茅葺きの母屋に設置されていたものを、ここに移設しました。盛美の息子、辨吉により大正六年に造営されたものです。
鎌倉時代の本尊を祀る室内の蒔絵は、人間国宝の河面冬山の手になるもので、日本最大の大きさだそうです。費やした財力が、そのまま建築化されたような、豪華絢爛さは、必見です。
ただし、残念なのは、茅葺きの家と、この金と黒の空間が、元々の取り合わせではないこと。
今は、漆の乾燥劣化を防ぐために、見学時の3分間だけ照明に照らされ、それ以外は闇に隠れています。
交通
弘前駅から弘南鉄道弘南線黒石行で20分(30分毎)、津軽尾上駅下車、徒歩20分。
リンク
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宿泊施設のリスト
弘前市旅館ホテル組合
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