古川市場は、戦後の闇市に始まり、今の建物も、すでに齢40年だそうです。細い道を挟んで、青森魚菜センター、青森公益魚菜センター、青森生鮮食品センターの3つに分かれています。
駅寄りにあった駅前市場は、再開発されて、完成した商業ビル「アウガ」の地下に移ったので、青森市内で、市民御用達の市場の、昔からの空気を、ほんとうの意味で残しているのは、ここだけとなりました。と言っても、新建材を貼った表通りの構えは、郊外の安売り洋服店のようで、ここでよかったのだろうか、と一瞬迷います。
青森駅から徒歩7,8分。豪雪の中、わざわざ立ち寄ったのは、「のっけ丼」をいただくためです。「のっけ丼」とは、市場の飯屋でごはんの入ったどんぶりを購入し、場内の店を点々と回って仕入れた具とネタを載せてつくる、自分だけのどんぶりです。
通りに面した魚菜センターの引き戸を開けると、そこは、懐かしい市場でした。長い奥行の場内に、水に濡れた3列の路地が伸び、両側に露台を並べた店が続きます。魚介類を扱う店がいちばん多く、他に八百屋などがちらほら。その間に、おそらく店を畳んだ後を利用した休憩所が4、5個所。ここには、醤油とお茶が用意されていて、簡単なイートインになっています。
先ずは、ご飯の購入。ふつう盛りが100円、大盛りが200円で、発泡スチロールの白いどんぶりで渡されます。それを抱えて、ネタの仕入れへ。各店とも小分けしたネタを、小さなカップに入れて、露台に並べています。マグロ、サケ、ウニ、カニ、エビ、どれにしましょうか。ほとんどが100円から300円までで、100円単位の値ですが、それほど大きな市場ではないのに、ネタによっては、同じ量でも微妙に値段が違うというか、正確に言えば、微妙でも何でもなく、まるまる100円の差があります。この金額で100円の差は大きい。衝動買いをせず、一回りして、流れを読んでから行動に移すのが、得策です。
この日の私的「のっけ丼」ランチは、ウニにサケ、甘エビ、サケとイクラを和えたものに、ニシンと何かを和えたもの。それにご飯を合わせて、合計700円。小分けにして100円単位で購入すると、微妙に高い感じがしないでもありませんが、歩き回って、市場のおじさんおばさんとお話し、各店を堂々と覗き見できるのは、かなり楽しい時間です。
その楽しさは、アンテナの感度のいい観光客なら、皆かぎつけることで、この企画を始めて数年で、古川市場を訪れる観光客の数は急増し、売り上げも倍増しました。そう話す受付のお兄さんのホクホク顔を見るだけで、相当な成功が窺えます。
「のっけ丼」を企画したのは、青森の商工会議所。2009年、中心市街地の活性化の策として立案されましたが、駅前の「アウガ」の地下は、食堂を併設しているので難しく、食堂のなかった古川市場に白羽の矢が立ちました。「のっけ丼」というネーミングからして秀逸ですが、大きな仕掛けを新設する訳でもなし、各店が、ふつうに市民向けに売っている商品の脇に、小分けして売るコーナーをつくるだけ。掛かった費用と言ったら、飯用のどんぶりと小分け用のカップに、休憩所の整備ぐらいかというローコストにもかかわらず、これだけ魅力的な企画に仕立てた手腕に感心しました。
交通
青森駅から徒歩7、8分。
リンク
青森魚菜センター(古川市場)
青森県商工会議所(のっけ丼)
宿泊施設のリスト
青森市旅館ホテル組合
参考文献
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