青森の森を抜けて - 八甲田から十和田へ:冬の八甲田山と樹氷
(青森、青森、日本)

樹氷はアートでした。

青森駅からバスで60分弱の八甲田ロープウェー駅前、そこからロープウェーに乗り換え10分。

バス乗り場のある山麓駅から山頂公園駅まで、標高差650メートル、距離にして2.5キロ。その程度の違いなのに、麓では、雪は深いものの、葉を落とし、褐色の肌を晒したブナ林が広がる風景だったのが、ロープウェーが後半に差し掛かる頃には、アオモリトウヒの白い樹氷のシルエットへ遷移を始め、山頂公園駅を下りると、一面、樹氷の世界でした。

山頂公園駅は、標高1320メートルと、さほど高地ではありませんが、劇的な変わりように、本州中部の3000m級の山に相当するという、この地の気候の厳しさが窺えます。

八甲田山と言えば、陸軍の雪中演習の行軍で、199人が遭難死した事件と、1977年に大ヒットした事件の映画化で、日本人にはよく知られた場所です。それ故、スキー場として整備され、アスピリンスノーで有名となった今も、冬に訪れるには、一抹の不安を感じる場所であり、スキー場の主催するスノーシューツアーに参加することにしました。

数時間掛けて、かなり遠くまで探索するツアーもありましたが、今回は、1時間ほどのツアー。山頂公園駅から遠くない範囲を回るだけでしたが、樹氷を堪能するには十分でした。高台から八甲田山を構成する峰の一つまで続く樹氷の連なりを望み、歩きながらルート沿いの樹氷を鑑賞します。間近で見る樹氷は、そのまま現代美術や現代ファッションに移し替えても通用するぐらい、一つ一つの造形が斬新で、そして、同じものは一つもありません。自然の表現力に感嘆。

樹氷は、水滴を含んだ霧が、樹木に付着して凍結したもので、元々は、風上に向かって成長する「海老の尻尾」に例えられる部分を差しましたが、今は、氷結化した樹木の総称ともなっています。八甲田山でも、強風の影響で、山の斜面に向かって傾き気味な青森トウヒの先端が、さらに細長く風上に伸び、「海老の尻尾」が出現していました。

おもしろかったのは、その現象が、樹木だけでなく、人工物である山の電波塔や、山頂公園駅にまで及び、不思議な樹氷化の光景を出現させていたこと。既存の物に、何かを吹き付けて作品化するのは、現代美術の手法としてありますが、ここでは、自然自身が、そのアーテイストの役割を担っていました。

遭難事件の際、吹雪で迷った軍人たちは、視界の悪い中、真っ直ぐ歩いているつもりでも、人間の特性で、右にそれてしまい、いつのまにか、同じところをぐるぐると回り、行軍の先頭が、最後の人に追い付いたと言います。

樹氷巡りに訪れた2月のある日、晴天から吹雪までめまぐるしく変わる天気とは言え、遭難を連想させる気象状況ではありませんでしたが、その前日も翌日も強風でロープウェーは運行中止し、特に、翌日は25mの風が山上で吹き荒れていたそうです。観光開発され、今では簡単に樹氷を楽しめる地になりましたが、それでもなお、八甲田山は、過酷な冬と隣り合わせの場所なのです。

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交通
青森駅から八甲田ロープウェー駅前まで、バスで60分。八甲田ロープウェー山麓駅から山頂公園駅まで、ロープウェーで10分。

リンク
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冬の八甲田山

        Photo by Daigo Ishii