ゴールの旧市街
(ゴール、スリランカ)

世界遺産に指定されたゴールの旧市街は、19世紀にその地位をコロンボに譲るまで、スリランカ第一の港として栄えました。

現在の町の基礎は、1505年のポルトガル到来に遡ります。1589年にポルトガルのつくった小さな砦を、1640年、オランダが拡張し、今の旧市街の原型が出来ました。インド洋に突き出た厚い石積みの砦は、スマトラ沖地震の津波にもびくともせず、旧市街の被害を食い止めました。

町は、1796年、イギリスの手にわたり、貿易はもとより、ヨーロッパとアジアを結ぶ旅客船の寄港地として、頂点を迎えます。

「眠った街」、それが、ゴールの街を歩いた第一印象です。

きれいに整備された世界遺産の街を期待して、ゴールを訪れると、肩すかしを食らうかもしれません。古い民家や風情ある路地は残っていますが、往事の繁栄は今は昔、観光客相手のホテルや土産物屋が、ところどころあるぐらいで、町の空気も速度も、ふつうの地方都市と変わりません。

文化財のコロニアル教会には、週2日しか公開していないものもあります。世界遺産らしい商売っ気がないことといったら!。でも、個人的には、こういう、晴れがましく整備されていない街が好きです。

ゴールの典型的な町家は、路地と家の間に、ワンクッション、テラスを設けています。他の町にも、同じような家はありますが、これだけ集合していることと、それが、昔ながらの細い路地と結びついていることが、ゴールの魅力です。

庇の掛かるテラスは、屋外と室内をつなぐ中間の場所。実際には見掛けませんでしたが、建て込んだ町中では、椅子を出して、夕涼みする貴重なオープンスペースかもしれません。

一見すると、道路の延長の半公共空間に見えますが、境界に、オーダーの柱を立てたり、美しい刳型の手摺で仕切っています。床に白い大理石を張った家もあります。たった一段でも、路地とのしつらえの違いから、暗黙のうち、テラスがプライベートな領域とほのめかします。そういう境界のつくり方が、歴史ある都市の知的な付き合い方に見えました。

テラスに面した窓は、ステンドグラスや飾り模様で、趣向を凝らし、家の格や余裕を伝える部分。それもまた、長い間掛けて引き継がれて来たゴール旧市街の美意識ではないでしょうか。

大きな広場では、舗装がやり替えられ、コロニアルの公共建築が化粧直しの最中です。着実に観光整備が進んでいます。こうやって、植民地時代の輝きを取り戻して行くのでしょうし、観光の力を借りた活性化は、地域への新しい負荷の少ない、すぐれた振興策です。

だけど・・・。

ゴールを歩いて感じたこと、それは、繁栄が去り、新しい時代の産業変化からこぼれ落ちた町が、歴史から忘れ去られたなりに、いい年の取り方をしているということ。若々しかった時代もあれば、年老いた時代もある、それは、都市にとっての自然の摂理であり、穏やかな老齢期なら、そんなに悪いことではありません。

もうしばらくは、かつての遠い夢を見ながら、うたた寝をしているゴールのままでいてほしいとは、贅沢な願いでしょうか。

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交通
コロンボから鉄道、または、車で3−4時間。

宿泊施設のリスト

参考文献
Lonely Planet Guide 'Sri Lanka' (Lonely Planet Publication, 2006)
Wikipedia

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ゴールの旧市街の街並

        Photo by Daigo Ishii