フェニックスのフリーペーパーボックス
(フェニックス、アリゾナ、アメリカ合衆国)
歴史的な建築が思いの外残っていますが、それでも、味気ないことでは、今まで訪れた中でも十指に入るフェニックスのダウンタウン。車のスピードに合わせたモジュールでできた都市ですから、歩いて回れば、街並がますます大味に映るのも、仕方ないところ。
そんなフェニックスのダウンタウンの救いが、路上に並ぶフリーペーパーボックスでした。
アメリカの大都市のダウンタウンでは、ありふれた風景ですし、スケールの小さな店が立ち並び、人や車が、絶えず行き交う街だったら、埋もれて、同調していましたし、歴史建築が多い街並では、チープな樹脂素材の安っぽさが際立ち、景観の疎外要因になっている場合もありました。古く小さな建築の多いツーソンやサンタフェのダウンタウンがそうでした。
それなのに、なぜか、この、大きな建物ばかりで、人影のないフェニックスのダウンタウンに置かれると、急に愛らしく見えて来るから不思議。フリーペーパーボックスの写真ばかり撮っていました。
意味というのは、相対的なのです。キングコングサイズでつくられ、石やメタル、ガラスで、とりつく島もないフェニックスの都市空間が、カラフルな色とちょこまかとした形に生命を吹き込み、人間のスケールを思い出させる唯一の存在に変えました。街並そのものが、フリーペーパーボックスの背景のように後退して行きます。
正直言えば、数日の滞在では、フェニックスのフリーペーパー事情も、社会の中でのパワーも想像できませんが、このボックスが、可愛らしいお家に見えれば見えるほど、茫漠としたこの街では、フリーペーパーが、他の街以上に、人間的なネットワークをつくるよすがになっていると、勝手に見立てていました。
雑草のように、自然発生するボックスは、フリーペーパーのあり方そのものとオーバーラップします。そうは言いながらも、このボックスを、もう一つの街並として、自覚的にデザインすると、「街並のなかの街並」のような新しい都市空間が現れそうです。
そういうデザインが、逆に、実際のネットワークやメディアの姿を、新しい段階へ誘起することもあるのではないでしょうか。
交通
フェニックスのダウンタウンの徒歩圏内。
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