弘前と前川國男 - 3:
弘前市庁舎(弘前、青森、日本)

市庁舎とはどうあるべきか、という問題に対して、弘前市庁舎は、真摯に向き合った建築です。市民会館に比べれば、地味ですがいい作品です。

市役所は市のシンボルか、という命題に対して、年に完成した本館は、建物の高さを、通りを挟んで、その正面に広がる弘前公園の樹木の高さに合わせることで、答えました。

弘前のシンボルは、弘前公園であり、その弘前公園の中央に立つ弘前城なのです。何もシンボルのない、新興都市ならいざしらず、弘前は、東北有数の歴史と文化を誇る町であり、中でも、弘前公園は、弘前の名を知らしめす機会があるたびに登場する、弘前のイメージそのもの、そして、桜の風景により、日本の春を代表する場所です。高さがあり、景観を圧倒する現代建築は、不要を超えて、迷惑でさえあるかもしれません。

梢の頂に合わせて、4階建てに抑えたボリュームは、公園の緑のシルエットとそろい、通りを挟んで、反対側に人工の樹影が出現した印象です。風雨を遮るため、大きな庇が、ニ層ごとに飛び出しているのも、張り出した木々の梢のアナロジーに見えます。通りから公園の緑までの距離感と、通りから市庁舎のファサードまでの距離感が近いから、いっそう、写し鏡のように感じるのかもしれません。

庇が、一層ごとだったら、外から見れば鬱陶しく、中から見ると暗々として、市庁舎の印象も変わったことでしょう。ニ層ごとにすると、雨を遮りながらも、光が室内に入りやすく、ファサードに落ちる影の量も少なくなるため、内外とも、明るく、のびやかに見えます。それもまた、緑の大らかな印象と響き合うようです。よく見ると、一段目と二段目の庇の出が違うのも、微妙な味わいを加えていました。

通りに近く建物を置いた配置も絶妙です。市民にとっては、施設に近づきやすく、そして、通りを通るたびに、市役所で働いている人の様子が、はっきりと目に入り、役所の存在を、身近に感じます。通りから引っ込み、大きな前庭の向こうに立つ市役所をイメージすると、違いがお分かりでしょう。コンクリートの柱梁に、煉瓦タイルというローコストの仕上も、堅実で、質実であるべき役所のあり方を体現し、市民の近づきやすさに、一役買います。

贅を尽くした訳でも、強い形に仕立てた訳でもないから、ぱっと見には、印象が弱いとしても、見るほどに、弘前公園に面した立地と、市民との関係へのさりげない心遣いに満ちています。

それは室内に入っても変わりません。エントランスの群青色の天井に始まり、階段室のえび茶色の壁、トイレ回りのくすんだ水色や灰色の壁、窓台のエッジに通されたアルミ材など、つつましい方法で、場が生き生きと華やいで行きます。

そして、1階エントランスホールとその吹抜、そして、階段ホールという、職員も、ここを訪れる市民も、誰もがつねに経由する場所が、大きな窓で、弘前公園の緑に向かって開いており、通るたびに、町のシンボルを意識することになります。

ただし、疑問なのが、年に付け加えられた増築部分。

建設された時代の違いを、仕上げ材の違いとして表現するのは、よしとしても、タイルの艶や目地の深さによって、増築部の色が強く際立ち、本来は主のはずの本館が従に見えます。

そして、本館建設の際、弘前公園の木々の高さから突出しないように、建物の高さを決めたはずなのに、増築部では、自ら率先して、その轍を破っています。水平の本館に対して、垂直な増築部のボリュームは、バランスが取れていますし、足下の広場との関係も悪くありません。しかし、ここは、弘前のシンボル、弘前公園との関係が切り離せない場所です。

弘前公園に対して、建築が一歩引き下がり、景観への配慮に成功した本館に対して、増築部は、公園に寄り添うというより、対峙し、見下ろして支配するようです。

そして、単調で、役所建築によくありがちなインテリア。機能主義に、ヒューマンスケールや環境との関係を巧みに持ち込んだ本館と比べてしまうから、そう見えてしまうのでしょうか。

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交通
弘前駅から弘前駅から西目屋、相馬、岩木方面行きバスで20分、市役所前公園入口で下車、または、土手町循環バスで20分(日中は頻発)、市役所前下車、すぐ。

リンク
弘前市役所

弘前観光コンベンション協会
弘前総合情報RIng-O Web

宿泊施設のリスト
弘前市旅館ホテル組合

参考文献
"前川國男と弘前" (A haus2005年1月号、A haus編集部、2005)
"建築家前川國男の仕事" (美術出版社、2006)
木村産業研究所展示

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弘前市庁舎(1958)

        Photo by Daigo Ishii