八戸に学べ:八戸の市場
陸奥湊市場(八戸、青森、日本)

陸奥湊の市場は、朝3時に始まる・・・らしい。

さすがに3時起きはつらく、到着するのは、いつも早くても5時。だから、未確認です。ただ、冬のまだ暗い空の下でも、5時には支度や下ごしらえが半分済んで、そろそろ人を迎えようかという空気だから、3時か、遅くても4時には、店を開けているはずです。

陸奥湊の駅前を下りると、もうそこが、陸奥湊の市場。左右に延びる、さして広いとは言えない道の両側に、卸売の大店と、個人商店の集まりの小売市場が混在しています。建物は、どれも、時間が、雨が、煤が染み込み、店の床も路面も水に濡れて、灰色に光っています。その間を買い物客や軽トラックが行き交い、ついでに言えば、車の通る道路脇に、ガスによる燻製という訳でもないのでしょうが、魚が干され、時折雪つぶての舞う寒空の日でも、路上に売り子が出ています。

買い物客のお目当て、小売市場に入ると、そこには間口一間の個人商店が、通路を挟み、両側にぎゅうぎゅうに並びます。小分けした下ろし立ての魚や刺身、焼き魚、干物、お総菜が隙間なく埋められた露台は、木の脚に板を載せた危なっかしいものも多いし、発泡スチロールの箱を積み上げただけのものもあります。灯りは、天井から吊された裸の白熱灯やレフランプ。

売り子の大半は、「イサバのカッチャ(漁場のお母ちゃん)」の異名もある女性で、齢50を超えているでしょうか。ビニールカーテンで道路と仕切っているところもありますが、寒風にはほとんど無策だから、室内とは言っても、誰もが、オーバーを羽織り、頭にはショールや毛糸の帽子という出で立ちで、客とやり取りしています。

若い店員がきびきびと動き、安普請とは言うものの、きれいで清潔で、暖房の調ったスーパーに慣れてしまうと、活気はあっても、どこか裏さびしく、寒々しく見える風景に、拒否感を示す人もいるかもしれませんが、昭和30年代にでも戻ったようなこの空気、個人的には好きです。近くにあれば、毎日立ち寄って、必要ない物まで買い込みそうです。

ローカルフードが、今の時代、スーパーよりこういう市場に残っていると言うのも、意外と幻想のようにも思いますが、きれいすぎる場所よりは、こういう市場の方が、頑張って伝統食を守る防波堤のように見えてしまうのはなぜなんでしょう。きれいでない、時間の澱の持つ安心感と言いましょうか。まあ、実際、何を質問しても要領を得ないし、聞いてきますと言って、どこかに消えるスーパーの店員に比べれば、食材や調理方法について、きちんと教えてくれるし、八戸で何十年も商売した蓄積で、土地の話題を振っても、納得する答えが返って来ます。

そう、いろいろ考えると、この市場自体が、八戸の持つソフト力の、それも人のソフト力が時間を掛けて蓄積された場所なのです。

小売市場の奥には、簡易なテーブルと椅子が置かれています。場内で買った焼き魚や刺身を持って、このカウンターで、ご飯と汁を頼み、朝ご飯。旅館で用意されていると分かっていても、食べずにいられません。多分、市場の気配が特別な調味料となって、いっそうおいしく見えるのです。

陸奥湊は、八戸藩の港として江戸時代から栄えた町です。そこに八戸市営魚菜小売市場が開設されたのが、昭和28年(1953年)だから、すでに半世紀以上。この市場も高齢化の波から無縁ではありません。櫛の歯が欠けるように、点々と、主のいなくなった売り場があります。八戸三社大祭やえんぶりと言った八戸が誇るソフトのように、次の世代に引き継がれて行く方法はないのでしょうか。

イサバのカッチャと話をしていて、気になったのが、路上の売り子のこと。実は、彼女たちは無許可で商売をしているそうで、市場の公益費を負担しないのに、トイレや施設を自由に使うと、カッチャはおかんむり。皆が寄り添って支えて来たように見える小さな世界にも、いろいろとあるんですね。

英語版へ移動する

Google Maps で場所を見る

交通
八戸駅から電車で15分(1時間に1本程度)、陸奥湊駅で下車、すぐ。
八戸駅から中心街経由、バスで40分(日中10分間隔)、上柳町で下車、徒歩5分。

リンク
陸奥湊朝市(八戸市役所)

陸奥湊朝市(八戸観光コンベンション協会)

八戸市役所
八戸観光情報
八戸観光コンベンション協会

宿泊施設のリスト
八戸市の宿泊施設

参考文献

Upload
2018.01 日本語版の文章、写真+英語版の写真

Update 

← previous  next →

Copyright (C) 2010 Future-scape Architects. All Rights Reserved.
無断転載は、ご遠慮いただくようにお願いいたします。

← previous  next →

陸奥湊市場

        Photo by Daigo Ishii