旧海軍大湊要港部水源地堰堤
(むつ、青森、日本)

むつ市街から山手に少し入った森の中に、重要文化財の旧大湊水源地水道施設があります。

大湊が、ロシアとの緊張関係から海軍の拠点、要港部として開発され、その軍関係施設への給水のために、明治42年 (1909)につくられたものです。第二次世界大戦後は、町に移管されて、昭和51年(1976)まで、使われていました。

設計を手掛けたのは、桜井小太郎と言われており、後に、旧丸の内ビルディングを設計する桜井は、当時、ロンドン大学で学んだ後、技師として、海軍に所属していました。

森の奥から続く水路が、堰堤にせき止められた、半円形の沈澄池に開き、そこに貯められた水が、鋳鉄管で下流の濾過池へと配水されて行きます。

景観の中心となるのが、日本初の西洋アーチ式ダムとして知られる堰堤。堤の高さは7.9m、長さは26.5mで、貯水量は5000tという小規模なもの。その構造は、内部に砕石を詰め、外側にモルタル目地による間知石を積み上げています。九州の石工も関わったそうですから、はるか南の熊本や長崎の石橋や水道橋とつながっているのかもしれません。

緩く弧を描く堤の上部には、4個所のアーチ型の溢流口があり、あふれた水が流れ出しています。今は、遊歩道となっている、堰堤頂部の中央には、沈澄池の形に合わせたのか、八角形を半割にした赤い取水塔が立っています。周りを囲む緑と半円形の沈澄池、そして、堰堤のつくる景観は、実用的な土木施設としての機能を超えて、初めから公園施設としてつくられたような美しい佇まいを残していました。

と言いたいところですが、残念なのが、すぐ下流に建設された、国道338号線の宇曽利バイパスの、その名も「水源地大橋」。橋としてのデザインは、決して悪くないのですが、デザインの良し悪し以前に、そんなに通行量が多いとも思えない国道338号線にバイパスをつくり、それをこの文化財のすぐ目の前に通すという感覚に絶句してしまいます。全通していないからかもしれませんが、見学している最中に、通る車は皆無でした。

本来は、堰堤からあふれ落ちた水が、下の水路を流れて、木々の間を次の濾過池へと向かう風景も、美しいものだったのでしょうが、その繊細なスケールにはそぐわない、広い道路橋が横切り、雑音のように景観を台無しにしています。

橋の建設以前にも、一時は埋め立ての計画があったところを、建築史の大家、村松貞次郎さんらの働き掛けで、中止になったそうですから、受難の歴史を持つ文化財なのです。

英語版へ移動する

Google Maps で場所を見る

交通
大湊駅からバスで20分(約1時間に1本)、海上自衛隊前で下車。徒歩5分。

リンク
むつ市観光協会

むつ市役所
下北ナビ

青森県観光情報サイト
あおもりの文化財
文化遺産オンライン

宿泊施設のリスト
むつ宿泊案内

参考文献
"青森県の歴史散歩" (青森県高等学校地方史研究会編, 山川出版社, 2007)
土木学会選奨土木遺産

あおもりの文化財

Upload
2018.01 日本語版の文章、写真+英語版の写真

Update 

← previous  next →

Copyright (C) 2010 Future-scape Architects. All Rights Reserved.
無断転載は、ご遠慮いただくようにお願いいたします。

← previous  next →

旧海軍大湊要港部水源地堰堤

        Photo by Daigo Ishii