キャンディの古寺 - 3:
エンベッカ寺院
(キャンディ、スリランカ)

ランカティラカ寺院から南に下り、里山の風景を抜けて行くと、エンベッカ寺院が現れます。14世紀後半に、時のガンポラ朝の王、ビクラマバフ3世によって建てられたと言われています。元々は、集会場で、後に、カタラガマ神を祀る寺院に変わったそうです。

門を入り、左手に、高床式の蔵を見ながら、正面のお堂に進みます。門からの軸線を斜めに振るあたりは、日本建築のアプローチを彷彿。

駅のプラットフォームのような細長いお堂が、Drummer's Hallで、奥に、本堂とDancing Hallが続きます。

基壇上のDrummer's Hallは、外周を2列の柱で囲んだ、壁や建具のない開放的な空間です。日本建築を思い出し、懐かしさを覚えたのは、木造の柱梁、たる木、低い軒で構成されるシンプルな造り故でしょうか。

しかし、中に立つと、印象は変わります。物語が、小さい生き物のように、そこかしこに息づいているスリランカという場、それが建築化されたかのようです。柱梁に施された豊かな木彫が、物語を囁きます。

柱と梁の交点は、構造的な組物に見える蓮の花で飾られ、梁の一部にも、浮彫りがされていますが、もっとも顕著な木彫は、柱の中間に施された浮彫です。

各柱ごと、人の眼の高さで、異なるモチーフの、方形の浮彫が四面を回り、総計では、514面とのこと(柱の数に4を掛けると数が合わない気がしますが)。モチーフは、白鳥、鷲、馬、ライオンなどの動物から、蔦から生まれ出た女性、バカ騒ぎする人、レスリングする人たち、人魚など多岐にわたります。浮彫の一部は、廃屋となった王の集会所からもって来たそうです。

柱の真ん中が四面パネルで強調され、時に、浮彫が施される例には、スリランカでよく遭遇しますが、エンベッカ寺院のように、何もなく、簡素な形をした小さなホールで、精度の高い浮彫の柱が、これだけ林立するのを見ると、スリランカ建築の原点の一つに立ち会ったように思えて来ました。

モチーフから、宗教的テーマは読み取れませんが、浮彫には、結界を守る護符の役割があったのでしょうか。

石や煉瓦造りの荘厳な寺院に比べ、近づきやすい空気を持つエンベッカ寺院。純正の寺院としてつくられなかった出自や、浮彫のスケール感が、宗教を身近に引き寄せて行きます。

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交通
キャンディ中心部から車で小1時間

宿泊施設のリスト

参考文献
地球の歩き方「スリランカ」(ダイヤモンド・ビッグ社、2007)
Lonely Planet Guide 'Sri Lanka' (Lonely Planet Publication, 2006)
Embekke Wood Carvings (M.W.E.Karunaratna, Karunaratna)

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2007.11 日本語版の文章、写真+英語版の写真

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エンベッカ寺院 (14世紀)

         Photo by Daigo Ishii