フェニックスのランドスケープ
(フェニックス、アリゾナ、アメリカ合衆国)

極端な自動車社会として,ロサンゼルスが例によく挙がりますが、フェニックスの街を車で走って感じたのは、上には上があるなあ、ということ。

大まかに言えば、平原に、広い道路が、格子状にひたすら伸びて行く街です。時々、ポコッと立ち上がる岩山が、規則性を乱す程度。

格子と言っても、一辺約100メートル。京都のように歩くスケールで実感する格子ではなく、マイル仕様の車のスピードに合わせた茫漠とした格子です。ダウンタウンを除けば、ビルと家が、めりはりなく、べたっと広がり、建築はあっても、昔ながらの町やコミュニティーは、見えません。街全体がスプロール地区のようです。

もともとは砂漠なことを想えば、並木や家々の緑は、頑張っていますが、温帯や熱帯の緑や水にあふれる都市に比べれば、カラカラと乾いた風景で、そこに、点景として,はげた岩山が加わると、荒涼さも加わります。

だから、空港から街に出たとき、味気ないなあ、という第一印象だったのも、もっともなこと。

数日走っても、街を模した大規模商業空間を除けば、乾いたイメージを覆すものからは、縁遠い都市でしたが、不思議なことに、だんだんと拒否感が消えていました。住めば都とか、長いものに巻かれた訳でもなく、ここまでアンチ都市づくりが徹底していると、その潔さがあっぱれというか、時間を積み重ねた既成の都市とは違う身体感覚を嗅ぎ取ったのです。

中心部のビジネスアワーでさえ渋滞のない、道路事情が可能にする、車のスピード感覚のせいかもしれません。最高が、一般道で70キロ、ハイウェイで100キロという速度で、都市空間を疾走する感覚は、日本の都市を走るのとも、豊かな自然の中を走るのとも違います。まさに運転のシミレーションゲームです。

全米で6番目の大きな都市圏だけあって、高速で走っても、密度は薄いが、簡単には尽きない都市。めりはりがないなりに、途切れない都市空間がハイスピードで切り替わって行く様。ダウンタウンでも住宅街でも人影のほとんどない街路。迷路のように複雑なハイウェイのインターチェンジ。

いつのまにか距離感覚も方向感覚も消え、均質な風景には、つねに、同じところをぐるぐる回っている既視感があります。そこを、Hertzで借りたレンタカーの日本語音声付きカーナビを頼りに抜けて行く感覚は、まさにシミュレーションの世界。

運転しているスピード感覚は弱まり、街と車と運転している自分が、溶け合って、静止して行く瞬間が現れました。単調な繰り返しに、感覚が鈍化して行くことで、かえってハイになって行くような不思議な感じです。

そして、気候。

寒帯の、日差しが弱く、冬の長い地を想像すると、ネガティブな印象が浮かぶから、やはり、滞在中、ほとんど陰ることのなかった、はっきりとした明るい気候が、この街のアンチスケール感覚やスピードが消失する感覚と、相性がいいのかもしれません。

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交通
フェニックス都市圏全域。

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フェニックスのランドスケープ

Photo by Daigo Ishii