フランク・ロイド・ライトの建築を巡って:
アリゾナ・ビルトモア・ホテル - 1
(フェニックス、アリゾナ、アメリカ合衆国)
アリゾナの州都フェニックスには、フランク・ロイド・ライトの作品がかなり現存しています。代表作であるタリアセン・ウエスト、教会、たくさんの個人住宅、そして、曰く付きのアリゾナ・ビルトモア・ホテルです。
なぜ曰く付きかと言うと、ライトの関与をどこまでと見るかで、意見が分かれるからです。経営するウォルドルフ・アストリアは、ライトの名をかなり前面に出していますが、実際のところは、ライトに住宅を依頼したクライアントの息子であり、事務所で働いたことのあるアルバート・マッカーサーが、ライトの監修とブロック造の特許供与を受けて設計したというあたりに、落ち着いているようです。
ただ、何度もそのことが蒸し返されるのは、このホテルが、ライトの作品たるにふさわしい質を備えているからなのでしょう。出来上がった建築を見たライトは、「2階建てを4階建てにしたため、プロポーションが壊れている」と言ったとか、ブロックを構造として使わず、コンクリートや鉄材を採用したことを怒ったとか。そういう話も、実は、自分の関与が弱いのに、かなりの作品ができたことに対する裏返しの表現だったのではないか、という気がします。
アルバート・マッカーサーには、失礼ですが、すぐれた信奉者が、本人以上に、本人らしい作品をつくってしまうのはよくあること。客観的に対象を見ている故、見事にエッセンスをすくいあげてしまうのでしょう。実際に感じたのも、シンプルなライトという印象。本人がのめり込んだら、もっと装飾的で、ぐちゃぐちゃしていた可能性もおおあり。オリジナルと模倣の関係について、考えさせる建築です。
ホテルが開業したのは、1929年2月。同年10月の大恐慌が目前でした。人口5万人だったフェニックスに、避寒リゾートをつくるために手を組んだのは、マッカーサーの兄二人と、ビルトモア・ホテル・チェーンの創業者ジョン・バウマンでした。
敷地の砂から25万個のブロックを製作するため、現場に工場をつくり、アリゾナの鉱業に敬意を表して、屋根を銅板で、室内の天井を、塗り替え不要という説明のもと、金箔で仕上げました。建設費は2倍以上にふくれ、当時の額で225万ドル掛かったそうです。火災に合い、改修が何度も入ったとは言え、建設時に贅を尽くしたことが、90年経てなお、最高級ホテルとして生き残る源泉となっています。
ブロックという素材にまつわるローコストのイメージはここにはありません。外も内も、品に充ち、気泡のつくる細やかなテクスチャーと、型押しのパターンが、意外なほど優雅です。
ロビーは、そのブロックの門型の架構に、吊り下げと埋め込みの白熱灯を合わせ、金箔張りの天井の下、無限に繰り返されるイメージをつくりました。そして、プエブロ調の壁画を背景にした、バンケットルーム。折り紙のような金箔天井が、外の気配や照明を映し、幻想的です。世界中で、ここでしか出会えない空間にあふれています。
そして、建築以上に見事なのが、荒々しい岩山スコー・ピークを借景とした庭園に、本館やヴィラを点在させた配置(次頁)。マッカーサーの手腕でしょうが、新しいヴィラも、コンセプトを引き継ぎ、敷地全体が散策路で回遊できるようになっています。パヴィリオンのような宿泊棟が、花壇が、噴水が、プールがひとつにつながって行きます。誰もいない朝まだき、散歩していると、文化施設の点在する大きな公園に迷い込んだ気がしました。
残念なのが、昔からのインテリアを残す部屋を指定したのに、コンクリートブロックは隠れ、他のホテルと代わり映えしないリノベーションの、よくありがちな部屋だったこと。パブリックの空間が、いい感じを出しているのに、もったいない。
交通
フェニックスのダウンタウンから車で約30分、空港から車で約20分。
フェニックスのダウンタウンと空港から、LRTとバスを乗り継いで、約1〜2時間。
宿泊施設のリスト
Aloft Tempe
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Hotel San Carlos
Hyatt Regency Scottsdale Resort and Spa at Gainey Ranch
Royal Palms Resort and Spa
The Canyon Suites at The Phoenicia
Americas Best Value Inn-Downtown Phoenix
Days Inn Scottsdale Fashion Square
Motel 6
Maricopa Manor B & B Inn
旅行の際に調べた情報であり、評価については、各人でご確認下さい。
参考文献
"Jewel of the Desert" (Biltmore Press、2009)
Wikipedia
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