フランク・ロイド・ライトの建築を巡って:
アリゾナ・ビルトモア・ホテル - 2
(フェニックス、アリゾナ、アメリカ合衆国)

先住民の問題ぐらい、正解の見つからないものはありません。中途半端な思い入れは、先住民から批判を受け、それが嫌で、タブーのように敢えて触れないというスタンスもあります。中途半端でも、ゼロよりはましと思うのですが、それは、マッカーサーを初めとするホテル創設に関わった人々も同じだったのでしょうか。

アリゾナ・ビルトモア・ホテルのさまざまな場面に、アメリカ・インディアンが見え隠れします。

ゴルフ場建設の際のこと。インディアンが、戦で、ここを隠れ場所に使ったという言い伝えから、彼らを雇って、整備を行いました。1929年のオープニングの日、飛行機から落とされたバラの花束とホテルの鍵を、支配人に手渡す役を任されたのも、ホピ族でした。

そして、ホテル設計のコラボレーターにも、先住民との関わりが見え隠れします。

ブロックの優美さの要、型押ししたパーツは、今はホテルのロゴにもなっていますが、彫刻家のエムリー・コプタがデザインしたものです。

留学先のフランスから戻ったコプタは、当時、ナバホ族の居留区で商品交換所を営んでいたジョン・ロレンツォ・ハブルに招かれ、彼の地を訪れました。インディアン文化に魅了された彼は、その後、ホピ族の居留区で12年暮らし、彼らをモデルにした彫像は代表作となり、アメリカ中西部のロダンと呼ばれるまでになりました。

マッカーサーが、コプタに依頼したのは、彼が、居留区での生活を終えた後だったから、ホピ族の彫像を目にしていたかもしれません。ブロックのパターン自体は、ホピ族とは無縁で、椰子の幹がモチーフですが、彼に依頼したことで、先住民の文化が、影のように付き添います。

もう一人は、画家のメイナード・ディクソン。

ダイニング・ルームを飾る2双の大きな壁画が、彼の手になります。4ヶ月間ですが、彼も、ホピ族の居留区に滞在していました。その際に見た彼らの世界観が、壁画のテーマです。

上の壁画は、開業時の目玉となった作品。光を発する父なる太陽と、とうもろこしを背景に立つ母なる大地。生命の象徴、とうもろこしの成長を司る母の右手には、雨が降り注ぎ、足下には、とうもろこしの入った器を抱える女性と、臼を碾く女性が跪きます。対となる壁画(下)は、大恐慌で製作中止となり、完成したのは1949年、メイナードの死後3年経っていました。

鉄道の開通が、中西部を観光地として照らし出し、遠い地へ誘うエキゾチスムとして、先住民や植民地文化とアールデコが結びついたプエブロデコが生まれました。メイナードの作品も、エキゾチスムの延長にあるものの、寓話のような表現が、植民地以前に遡る、先住民の長い時間を蘇らせます。ホテルに、時間の厚みが加わりました。

そうやって、ホテルは、幾重にも先住民とつながり、ただデザインを写しただけのホテルにはない奥行を手に入れました。

コラボレーターと言えば、もう一人忘れてならないのがライト。

入口を入って、最初に強い印象を残す、サボテンがモチーフのステンドグラス(最下段)、そして、庭園の彫刻(4段目左)が、彼の作品です。1927年にデザインした作品を、死後、夫人がステンドグラスにして、1973年の再オープン時に贈り、偶然発見された作品を元に再制作したのが、1985年に寄贈された彫刻です。

ホピ族とのコラボは、マッカーサーの構想のうちでしょうが、関係が微妙になったライトが、自分のホテルと言わんばかりに、ホテルの顔となる場所を浸食しているのはどうなんでしょうか。マッカーサーは、墓の中で、多分怒っています。

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交通
フェニックスのダウンタウンから車で約30分、空港から車で約20分。
フェニックスのダウンタウンと空港から、LRTとバスを乗り継いで、約1〜2時間。

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旅行の際に調べた情報であり、評価については、各人でご確認下さい。

参考文献
"Jewel of the Desert" (Biltmore Press、2009)
Wikipedia

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アリゾナ・ビルトモア・ホテル (1929) - 庭園

アリゾナ・ビルトモア・ホテル (1929) - 先住民文化およびライトとのコラボレーション

Photo by Daigo Ishii