フランク・ロイド・ライトの建築を巡って：
タリアセン・ウェスト - ２
（フェニックス、アリゾナ、アメリカ合衆国）
都市化が進んだフェニックスでも、タリアセン・ウェストの回りは、まだ、岩交じりで、サボテンと低い灌木が点在する、アリゾナの乾いたランドスケープを残しています。フェニックスの都市風景も、ここからは、かなり遠ざかり、荒涼とした、しかし、拒みがたい砂漠の風景を縁取る蜃気楼のようです。低い山を背にした、そんな砂漠の緩やかな起伏と風景に呼応して、タリアセン・ウェストの建築は、巧みに広がって行きます。
建物のあたりのランドスケープは、だらだらとして、特別強くはないのですが、そういう微地形が、ライトのデザインと、親和性が高かったようです。
ライトの十八番の水平的なデザインは、ここでは、その土地のなだらかな勾配と暖かな気候を映し出し、分棟で展開して行きます。
船首を模したプランの中央には、製図室、食堂、ガーデンルーム、ライトのプライベートスペースが、十字に配置されています。砂漠の風景へ開き、パーゴラや植栽、プールといった屋外空間を織り込みながら、内外が連続して行くため、図面からイメージするより、はるかに複雑な陰影をつくります。
地形の勾配は、水平線に回帰されて、ゆっくりとレベルが切り替わり、それに合わせて、屋根や窓のラインも、少しずつ動きます。大部分は平屋で、天井高のある空間は、地面に掘り込んでいるので、高さも抑えられ、地形から突出しません。元からのランドスケープのイメージを損なわずに、それでいてめりはりが生まれ、生き生きと、のびやかに場所が再解釈されました。
同じフェニックスでも、市街地の真ん中のファースト・クリスチャン教会では、岩を埋め込んだコンクリートは、不可欠の仕上には見えませんでしたが、タリアセン・ウェストで、砂漠の黄色い地面から立ち上がる壁に使われると、色といい、質感といい、ランドスケープがそのまま建築になったようです。ライトが名付けた、Desert Masonry Rubble Walls（砂漠風組績造の粗石壁）がまさしくぴったりです。
そして、窓枠や、小屋梁のレッドウッド（セコイアスギ）におそらくペンキを施したくすんだ赤茶色。実際に見るまでは、恣意的に見えていましたが、褪色したような砂漠の色彩感覚と、きつい日差しの下で見ると、白でもなく、強い色でもないこの色が、ランドスケープと響き合いながら、だけど、ぎりぎりのところで建築であることを放棄しない、微妙なバランスをつくり出す要素でした。
それにしても暑い。５月初めとは言え、アリゾナは暑く、そして、タリアセン・ウェストも暑かった。室内は、どこも、冷房をがんがんに入れています。暖かい冬を過ごし、夏の間は引き払う建築なのだから、当然ですが、移動型環境建築では、移動時期の見極めが大事です。
日差しの強さも半端でないようで、ガイドの話では、屋根を覆う白いキャンバスシートも、露出した木部の小屋梁も、ダメージが大きく、５，６年おきに、交換しているとのこと。ライトも、初めは、恒久性のない素材として、夏の無人期間、キャンバスを外すことを考えていたぐらいだから、不思議はないのです。
タリアセン・ウェストとは、アリゾナのランドスケープに合わせてつくられた建築というよりも、冬のアリゾナのランドスケープに合わせてつくられた建築だったのかもしれません。
交通
フェニックスのダウンタウンから車で約50分、空港から車で約40分。
近隣を走る公共交通はなし。
リンク
Taliesen West
宿泊施設のリスト
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Maricopa Manor B & B Inn
旅行の際に調べた情報であり、評価については、各人でご確認下さい。
参考文献
'Frank Lloyd Wright's Encounter with the Arizona Desert - Quarterly 2010.02 issue' (Bruce Brooks Pfeiffer, The Frank Lloyd Wright Foundation, 2010)
"建築ガイドブックーフランク・ロイド・ライト" (Arlene Sanderson、水上優訳、丸善、2008)
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