フローレンスの街並 - 1
(フローレンス、アリゾナ、アメリカ合衆国)

ツーソンの町を出たところで、ガソリンが残り少ないことに気がつきました。バイオスフィア2に立ち寄って、フェニックスへ向かう予定でしたが、そのうち、ガソリンスタンドが現れるだろう、とたかをくくっていました。甘かった。

バイオスフィア2まで50キロ、ゲーティド・シティはあったものの、スタンドのあるふつうの町は見当たりませんでした。見学を終え、淡い期待で、フェニックスに向けて走り出したものの、道の両側は、荒涼とした、サボテンの植わる半砂漠。まれに、牧場のゲートが現れるだけです。アリゾナとは、そういう土地だったのです。

不安に駆られながら走ること80キロ、ガソリンメーターが0に触れた頃、やっと現れた町、それが、フローレンスでした。

ガソリン以外何も期待しない町でしたが、満タンにして、走り始めた途端、目に入ったのが、歴史地区の標識。いったいどんなところでしょうか。静かな街中に入ってみました。

フェニックスから南東に80キロ、人口2万人の荒野の町がフローレンスです。1866年に開かれ、農産物の集散と銀鉱山で発展しました。今は、9カ所ある刑務所や移民施設、少年院も産業となっているようです。

歴史地区は、300メートルほどのメインストリートをはさんで、東西3ブロックほど。100ほどの建物が、国の文化財に指定されています。

一つのスタイルによる街並でも、建築史を彩る傑作が残る訳でもありません。19世紀半ばから20世紀初めまで、もう一つの建築史とでも言うべき庶民の建築スタイルの隆盛を蓄積した町です。フローレンス歴史地区は、20世紀初め、アメリカ中西部の典型的で特別でない町の「優れた例」なのです。

さて、ふつうの町とは、どんなところか。

一通り回って、既視感を覚えました。日本の郊外のスブロール地区の、表通りから一筋入った住宅街、あの密度感覚に似ています(住宅街の写真は次頁)。

土地に余裕のある田舎町 なのに、住宅の敷地も、そこに立つ家も、さして大きくない上に、家が立つと、アメリカ的な大きな庭は残りません。町づくりに関わるジェニファー・エバンスさんによれば、家が小さいのは、僻地で、鉄道が開通するまで、建築材料が限られたことと関係するそうです。残った庭は、家畜を飼ったり、自家用の畑に使っていたとのことで、そういう出自のせいか、アメリカの郊外住宅地で目にするガーデニングは縁遠く、たいていは更地のまま。そして、敷地に比べて広すぎる道。幅18mあります。

街並と呼ぶにはすかすかで、しかし、村のようなぽつりぽつり感もありません。どっちつかずの印象で、だから、無秩序に拡大したスブロール地区の印象がつきまとうのです。ただ、その感覚は、日本人特有かもしれません。

よく考えれば、フローレンスの町は、スブロールが加速した20世紀後半ではなく、そのはるか昔から、この地に根付いており、それも、町の真ん中です。このだらだら感は、中西部の、ふつうの町の「地」の感覚であり、それもまたアリゾナ、あるいは、アメリカ南西部のローカリティーなのです。

そういう低い密度から、唯一逸脱しているのが、メインストリートの150メートルばかりの小さな商店街。この一郭だけ、壁の隙間なく、建物がぴったりとくっ付いて、建て込んでいます。裏手は、すぐに低密度の住宅街ですから、何でここだけ?。

今は、中心部の空洞化で、人影も車通りもありませんが、かつての賑わいの記憶のように、商店街には、煉瓦造やテラコッタ貼りの歴史的建築物が連なります。

文化財に指定されている商業建築は、1880年代から1910年代のもので、ヴィクトリアン様式か、古典主義建築のリバイバルです。と言っても、平屋で間口が狭く、ファサードも小粒で、そこに前髪のような木製のアーケードが被さるから、煉瓦造の仰々しさとは無縁の可愛さです。

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交通
フェニックスから車で約1時間。
ツーソンから車で約1時間半。

リンク
Florence Main Street Program
Florence Visitor Center
Greater Florence Chamber of Commerce
Town of Florence

宿泊施設のリスト
Blue Mist Motel
Holiday Inn Express Hotel & Suites
Inn at Rancho Sonora
旅行の際に調べた情報であり、評価については、各人でご確認下さい。

参考文献
"Historic Florence Walking Tour" (Florence Main Street Program)
Wikipedia

協力
Jeniffer Evans(Florence Main Street Program)

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2018.01 日本語版+英語版

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Photo by Daigo Ishii