南西部の建築探訪 劇場巡り - 1:
オルフェウム劇場
(フェニックス、アリゾナ、アメリカ合衆国)

南西部の大きな都市には、歴史的建築として、魅力的な劇場がいくつも残っています。

1つ目にご紹介するオルフェウム劇場は、フェニックスのダウンタウンの中心に、巨大な高層ビルに埋もれるように、静かに建っています。

1929年、フェニックスの建築家Lescher & Mahoneyの設計で完成したスパニッシュ・バロックのリバイバル(復興)様式です。ボードヴィル劇場として始まり、アメリカ映画館、ヒスパニック映画館へと転々とした末、1984年に市が買い取り、13年の改修を経て、1997年に再オープンしました。その変遷と、フェニックスの街の劇的な変わり様の中で、この低層建築が、よくぞ残ったと嬉しくなります。

何連にも続く街路に面したアーチの奥は、今は、ロビーになりましたが、元々は、屋外に開放された公共のアーケードで、開場前の客や売り子がたむろする場だったそうですし、ファサード頂部を縁取るメダリオン(円形の浮彫)も、アーチ同様、街路に沿って繰り返し、外観を都市的スケールに仕立てます。そして、建物の角に立ち上がる六角の塔は、完成当時は、交差点のランドマークとなったのでしょう。

今は、高層ビルに圧倒され、その上、似たような色味の建築が多く、記憶からこぼれ落ちそうですが、実は、フェニックスの街を相当意識してデザインしたに違いありません。

外観以上に趣向を凝らしたのが、内部です。まず、ロビーに入ると、スペインバロックを代表するチュリゲーラ様式の、ねじり柱や葉の浮彫の扉がお出迎え。細工の精巧さと密度に圧倒されます。バロックの華やかさは、20世紀の劇場に採用されても、気分を高揚させ、観劇への期待を上昇させるアドレナリン効果を発揮します。

扉を開けると、今度は、夢の中に踏み出したようなホールが現れました。明るい外の光から、薄暗い室内のロビーに入ったはずなのに、その奥の扉の向こうには、再び、屋外が、それも夕闇の高原が広がっていました。

天井は、暮れかかり、空の裾は、少し明るさを残すものの、藍色に染まりつつあります。最上段は、アーチを連ねたコロニアルの邸宅が、馬蹄状に客席を囲み、その両翼は、折り重なる山につながります。山は、麓に向かって、急崖で落ち、遠い平野が、見下ろすような平土間の客席に続きます。

夏の夜の野外のオペラ会場にいるようで、ほんの少し前までのアリゾナの暑さは遠ざかり、涼しい風が吹き抜けて行きます。

舞台のプロセニアム・アーチは、残照で、金色に輝き、今は、暗転している舞台の向こうには、次の夢の風景が広がって行くはずです。

観覧前、内部をさまようだけでも、ひととき、違う時間に満たされます。今の劇場は、プロセニアム・アーチの奥に夢が残るだけですが、オルフェウム劇場では、入口を一つ抜けるたびに、次の夢が現れます。さまざまなメディアがあり、遠くに行くことも簡単になった現代とは違い、劇場が、唯一の夢だった時代の名残が、このオルフェウム劇場なのです。

劇が映画に変わり、技術が精巧になると、劇場が奏でていた夢は色褪せて行きました。ヒスパニック映画の劇場になった70年代には、映画への集中をそぐという理由から、壁画も金色のプロセニアム・アーチも黒く塗りつぶされたそうです。

英語版へ移動する

Google Maps で場所を見る

交通
フェニックスのダウンタウンに位置する。

リンク
Orpheum Theater

City of Phoenix
Visit Phoenix

宿泊施設のリスト
Aloft Tempe
Arizona Biltmore Hotel
Camelback Inn
Hermosa Inn
Hotel San Carlos
Hyatt Regency Scottsdale Resort and Spa at Gainey Ranch
Royal Palms Resort and Spa
The Canyon Suites at The Phoenicia

Americas Best Value Inn-Downtown Phoenix
Days Inn Scottsdale Fashion Square
Motel 6

Maricopa Manor B & B Inn
旅行の際に調べた情報であり、評価については、各人でご確認下さい。

参考文献
Orpheum Theater
Wikipedia

協力
Luis Ruiz (Orpheum Theater)

Upload
2018.01 日本語版+英語版

Update 

← previous  next →

Copyright (C) 2010 Future-scape Architects. All Rights Reserved.
無断転載は、ご遠慮いただくようにお願いいたします。

← previous  next →

オルフェウム劇場 (1929)

        Photo by Daigo Ishii