南西部の建築探訪 劇場巡り - 2:
レンジック劇場
(サンタフェ、ニューメキシコ、アメリカ合衆国)
エルモーロ劇場
(ギャラップ、ニューメキシコ、アメリカ合衆国)
アメリカ中部、カンザスシティに設計事務所を開いたBoller Brothersは、20世紀前半のアメリカに数多くの劇場建築を残しました。
サンタフェのレンジック劇場、ギャラップのエルモーロ劇場、それに、アルバカーキのキモ劇場。
彼らのスタイルは、 場所に合わせて変幻自在。1931年完成のレンジック劇場は、ムーア風とスパニッシュ・ルネッサンスのリバイバル様式、1928年のエル・モーロ劇場は、植民地時代にアメリカ大陸を席巻した、スパニッシュ・コロニアルのリバイバル様式、そして、1926年のキモ劇場は、中西部の文化とアールデコが融合したプエブロ・デコとなります。
そのあたりになると、建築に関わる人間にだって、厳密に識別できる自信はありません。かいつまべば、アメリカ中西部の「地」である、先住民や植民地文化をベースにしたスタイルというところです。
今は、レンジック・パフォーミングアートセンターとなったレンジック劇場は、サンタフェのダウンタウンの広場から2ブロック。ここまで来ると、人波も落ち着いて来ます。ちなみに、Lensicの由来は、劇場主の孫の名の頭文字を組み合わせたもの。
オープンした当時、「西部でもっとも素晴らしい劇場」と詠われたそうです。 ボリュームの固まりを積み上げたプエブロ・スタイルの街並の中では、アーチの小窓や、鋳鉄の飾り格子、ドラゴンを象った屋上の手摺、そして、バルコニーを模した棟飾りまで、繊細なエレメントが、品を漂わせます。
ポーチを入ると、抑えたルネッサンス風外観から、ムーア風の華やかなデザインに切り替わります。エントランスは、ミニチュアの円柱と雲形のアーチに、赤銅色と緑青色のアラベスク模様の格天井。奥のロビーは、少し平板ですが、ホールに入ると、再び、ムーア風の豪華な柱や、プロセニアム・アーチが出迎えます。
ここでは、客は、遠いアラビアの地に飛び、劇や映画を楽しむのです。迷い込んだアラビアの世界を盛り上げるように、オープン当時、天井には、砂漠の天幕をイメージしたストライプのタペストリーが掛かり、灯りを落とすと、雲の影が投影されたそうです。
2000年、大規模な改修で、現代的設備が装備されました。劇場の質は上がり、一流アーティストの公演から高校のプロムまで、引く手あまたとのこと。70年前の建築が、町いちばんの劇場として生き残るには、最新設備は不可欠ですが、黒く控えめとは言え、天井を埋める空調や照明により、アラビアの夢は、遠ざかったようです。
エルモーロ劇場があるのは、アリゾナとの州境に近いギャラップの町。ルート66の中継地点として栄え、周辺にインディアンの居住区が広がることから、Indian Capital of the Worldと呼ばれていました。
その活気ある時代の名残の一つが、この劇場です。
メインストリートに面したファサードは、上部が、ねじり柱や波打つパラペットのスペイン風デザインモチーフ、1階回りが、幾何学的な文様のえび茶色と水色のタイル貼りで、アールデコ風です。2つのスタイルが、融合せず、別々に配置されているせいなのか、プエブロデコのリストには載っていないようです。
回りと、高さも壁面位置も揃っているから、ファサード1枚の勝負ですが、同じ建築家がデザインした、サンタフェのレンジック劇場やアルバカーキのキモ劇場に比べると、平板でおとなしめ。
州の中心都市と辺境の町の間の、都市格差や予算の違いが、デザインの上にも映し出されているのでしょうか。
Google Maps で場所を見る(レンジック劇場)
Google Maps で場所を見る(エル・モーロ劇場)
交通
レンジック劇場:サンタフェのダウンタウンの中心広場(プラザ)から徒歩数分。
エル・モーロ劇場:アリゾナ州フェニックスからギャラップまで車で約5時間。ニューメキシコ州アルバカーキからギャラップまで車で約2時間。ギャラップの中心部に位置する。
リンク
Lensic Performing Art Center
El Morro Theater
宿泊施設のリスト(ギャラップ)
El Rancho Hotel
参考文献
Lensic Performing Art Center
協力
Connie Schaekel (Lensic Performing art Center)
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2018.01 日本語版+英語版
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