アルワコ族の集落
(シエラ・ネバダ・デ・サンタ・マルタ、コロンビア)

コロンビア北部、シエラ・ネバダ・デ・サンタ・マルタ山脈は、海からの距離と標高差の比で世界有数の険しさの場所で、万年雪の最高峰、5775mのクリストバル・コロン山は、熱帯のカリブ海の岸から40キロ。そして、氷河も残る地。その山の奥深いエリアは、先住民の保護区域となり、南斜面にはアルワコ族、北斜面にはコギ族が暮らします。

標高2000m、そのアルワコ族の中心集落がナブシマケ。彼らの言葉で「太陽の生まれるところ」を意味します。

麓の街バジェドゥパールからの乗り合いトラックは、道が途切れると、川床を上り、岩の上を走って、山深く進んで行きます。乗り合いトラックの終点から森を抜けると、一面の牧草地が広がり、馬、牛、羊、豚、鶏が、のびのびと放し飼いされていました。牧草地の中央を抜ける土の道は、一応、柵で仕切られていますが、鶏は、勝手に入り込んで来ます。その自由な空気を進むと、低い石垣に囲まれた集落が現れました。石垣の中には、石を積み上げた腰壁に、白い塗り壁、わらぶき屋根の家が連なり、田舎らしい日常は反転し、静かな気高さが際立ちます。アルワコ族の精神的支柱となる地、ナブシマケです。

人物撮影禁止のため写っていませんが、アルワコ族が暮らしを営み、多くが、生成りの民族衣装と帽子に、文様を織り込んだ白地の2つのカバンを、肩から十字に掛けています。その生成りの白さが、彼らを無垢な存在に仕立て、ナブシマケをいっそう神々しくします。

アルワコ族の世界観では、シエラ・ネバダ・デ・サンタ・マルタ山脈が世界の中心であり、世界のすべて。山も、岩も、湖も、植物も、聖なる存在であり、そういう意味では、神道に近い性格なのかもしれません。

ナブシマケにスペイン人がやって来たのは1750年。麓の町バジェドゥパールが、創建されたのが1532年なので、そこから直線距離で30キロの山の奥に入るまでに150年。侵略者を避けて平野から撤退し、150年の間は、シエラ・ネバダ・デ・サンタ・マルタ山脈の山奥で、何とかアルワコ族の世界を完結できたのでしょうが、それ以降は、さまざまな軋轢が生まれ、20世紀に入っても、コロンビア政府が、先住民文化を禁じ、彼らのエリアの開発を企てたこともありました。1983年にカトリック教会を撤退に追い込むまで、アルワコ族にとって望ましい状態からは程遠かったようです。大きな広場に立つベルタワーは、その教会が入り込んでいたときの名残とのこと。

訪れた1991年、穏やかな空気がずっと続いて来た場所に見えましたが、ほんの数年前に取り戻したばかりだったのです。そして、それもなお不安定な状態。シエラ・ネバダ・デ・サンタ・マルタ山脈が、ユネスコにより、生物圏保護区に指定された今も、文明社会からのさまざまな圧力、さらに気候変動にさらされています。

ナブシマケから下界に戻る乗り合いトラックは、彼らが、市場に持って行く果物で満杯。アーティチョークのような果物を、プレゼントされました。皮をむくと白い果実が現れ、ミルクシャーベットのような甘く濃厚な味。最近、日本の高級フルーツ店で見かけるチェリモヤが、先住民と外の世界をつなぎ、共同体を支えていました。

(注)南米のスペイン語圏では、インディオは差別用語として使われず、先住民を意味するインディヘナIndigenaが使われています。

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交通
バジェドゥパールからナブシマケまで乗り合いトラックで3時間程度だったが、今は観光客は利用できないようで、近在の町プエブロ・ベージョから徒歩またはロバ、専用車に乗って行くようである。徒歩では5時間程度。

リンク

宿泊施設のリスト

参考文献
"先住民が守る聖なる山、部外者を拒む巡礼の旅に同行した" (Gena Steffens + Stephen Ferry, ナショナルジオグラフィック日本版, 2019/12/22)
"Guia de relacionamiento y dialogo entre el sector minero-energetico y el pueblo Arhuaco" (Resguardo Indigena Arhuaco de la Sierra de la Nevada, Confederacion indigena Tyron, Organizacion del Pueblo Arhuaco, 2015)
"Arhuaco tribe asks Bogota to protect their lands from extractive activities" (EFE, La Preens Latina Media, 2021/11/09) "Arhuaco Universe" (Crispin Izquierdo Torres + Juan Bautista Villafana + Juan Marcos Perez + Manuel Chaparro + Karmen Perez + Norberto Torres + Otoniel Mejia Izquierdo + Jesus Izquierdo + Mauricio Sanchez, Organizacion Cultural del Caribe Colombiano) "El grupo indigena colombiano arhuaco reci- bio 500 hectareas para proteger la biodiversidad" (Romina Castagnino, Mongabay, 2017/05/04)
"The Arhuacos’ last stand in the heights of Sierra Nevada" (IWGIA, 2018/10/12)
Wikipedia

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2022.07 日本語版+英語版の文章、写真

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アルワコ族の集落:中心集落ナブシマケの家並。

アルワコ族の集落:中心集落ナブシマケを丘の上から見る。森の中に畑や牧草地が広がり、その中央に、石垣に囲まれて、家が密集して立つ。

アルワコ族の集落:家畜の放牧された牧草地の間を進むと、その先にナブシマケが現れる。

アルワコ族の集落:中心集落ナブシマケに入る門。訪れたときには、この手前の管理所で入村料を徴収された。

アルワコ族の集落:中心集落ナブシマケの石敷きの広場。左手に、カトリックが入っていた頃の名残というベルタワー。

アルワコ族の集落:中心集落ナブシマケの風景。方形の寄棟の住居がきれいに並び、地面には、石が敷かれている。

アルワコ族の集落:中心集落ナブシマケの風景。

アルワコ族の集落:(左)民家の壁面と軒の納まり。(右)集落内を流れる水路。

アルワコ族の集落:中心集落ナブシマケの風景。円形の小屋は、おそらく祭祀施設。

アルワコ族の集落:中心集落ナブシマケの民家を牧草地から石垣越しに見る。

アルワコ族の集落:森を抜けると、草地の向こうに牧草地に入る門が見え、さらにその向こうに、ナブシマケの家並。

        Photo by Daigo Ishii

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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