津軽半島へ:
十三湖
(五所川原・中泊、青森、日本)

何もないということは、味わい深いものです。

十三湖は華々しい風景とは無縁の湖です。西は、狭いところで500mほどの細い砂嘴を挟んで日本海と平坦につながり、北と東は山が囲むものの、それほど高くも険しくもなく、際立った山容ではありません。

ただ、雪に覆われた真冬、たまに現れる弱い日差しで照らされると、静かな白い水面と白い雪のランドスケープがつながり、どこまでも続くような水平で茫洋とした広がりが現れました。

雪の積もる大平原や凪いだ海のように単調ではなく、水と雪、そして青さの薄められた空による、微妙な光の違いが混じり合って行きます。まったく距離感の消えてしまう雪のランドスケープでもなく、かと言って、遠近感のはっきりした夏のような距離感もなく、遠いようで遠くないような、不思議な奥行で、何があるという訳ではないのですが、見飽きません。

十三湖は、岩木川河口に位置し、北西にある水路で日本海とつながる汽水湖で、面積18平方キロ、水深は3mの浅さです。現在、遺構を発掘中ですが、中世には、西岸に、日本海航路の中継地である大きな湊町、十三湊が築かれていました。

今は、同じ汽水湖の宍道湖同様、シジミの産地として有名です。本格的なシーズンは春から秋。その季節には、湖の中央で舟による漁が許可されますが、冬は、岸辺に近い場所で、舟を使わず、鋤廉という木製の器具で砂を掘り起こす漁だけが認められています。夏に捕獲した小さなシジミを岸辺近くに撒き、冬に収獲するそうです。

丁度、訪れた日も、日曜日と言うのに、ゴムのつなぎの漁師が、脇にプラスチックの桶を浮かべ、腰まで水に浸かりながら、砂を突いていました。

今は、高値で取り引きされ、100人近い漁師の生活を、年間を通して支えていますが、昔は、安値のため、冬は出稼ぎに行かなければ暮らせなかった地です。現在、漁獲を維持するために、休漁日などを含めて、厳しい管理をしていますが、漁協の掲示板に張り出された新聞を見ていたら、十三湖にある2つの漁協のうち、生産者情報などのトレサビリティーの導入を進めている十三湖漁協と、そうでない車力漁協の間で、取引金額に大きな差が付いているそうです。

十三湖で泊まった宿のおかあさんも話していましたが、十三湖漁協は、漁業権と入札権を分けて、漁協が収獲も販売も一括管理。漁師の直接販売はありません。そういう積み重ねでブランド力を獲得した訳です。

交通が不便で、気候の過酷な場所にある荒涼とした湖に、産業も荒廃し、食べていくのもやっとという勝手なイメージを重ねていましたが、実際には、最先端のシステムが導入された近代化された場所だったのです。何もないどころではありません。

宿のおかあさんの話で印象的だったのは、「地吹雪で1メートル先も見えなくなって、車の運転も危ないので、冬は用がない限り、出掛けない。」という言葉。訪れた日は、もっとも冬の厳しい時期なのに、時折の吹雪も弱く、合間には晴れ間ものぞくという、この地にすれば、穏やかな日和でした。こういうのを運がよかったというのか、悪かったというのか。距離感の消える地吹雪の風景もまた、きっと、十三湖の別の味わい深さでしょう。

そして、さらにもう一つ、旅館の食事に必ず付く、濃厚なしじみ汁としじみバターも、忘れてはならない味わい深さです。

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交通
五所川原駅からバスで1時間半(1日7本)、十三で下車。徒歩すぐ。

リンク
市浦商工会

五所川原市役所
五所川原観光情報局

青森県観光情報サイト

宿泊施設のリスト
十三湖周辺の宿

参考文献
日刊水産経済新聞(水産経済新聞社)

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2018.01 日本語版の文章、写真+英語版の写真

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十三湖の風景

        Photo by Daigo Ishii