奄美の集落:与路島 - 2:集落
(瀬戸内、奄美群島、鹿児島、日本)
与路島は、面積9.48平米キロ。最高地点は297メートル。海からは、屏風のように山が立ちはだかった険しい島に見えましたが、実際には、集落のある東海岸の中央は、入江に沿った集落の裏に、大きく平地が広がり、山まで思ったより奥行があります。
集落は、入江に沿って、南北に細長く伸びています。浜に沿って、先ず、奥行5メートルほどの美しい防潮林。パイナップルのような実を付けたアダンが、びっしりと密生し、亜熱帯らしい風景をつくります。昔からのように、集落の景観にしっくりと溶け込んでいますが、元々、集落は直接浜に面しており、昭和43年の工事で、この林が生まれました。
林を抜けると、浜通りとでも名付けたい1本目の広い通りに出ます。海側には、アダンの並木の間にハイビスカスや芙蓉が鮮やかな花を咲かせ、反対側には、サンゴ石の石垣で囲まれた家が続きます。そこから、50m程内陸に、同じように南北に伸び、数軒の商店や診療所が並ぶ、メインストリートのもう一つの広い通りが走り、2つの通りの間を、さんご石の石垣で区切られ、木々の張り出した幾筋もの細い道が結んでいます。メインストリートの奥は、下り斜面に、部分的にふくらんだように住宅地が出っ張り、小中学校や郵便局、そして、屋根付きの相撲の土俵が置かれ、さらに、南側の一郭に、枝張りのすばらしいガジュマルの巨木が、コミュニティーのシンボルのようにそびえていました。集落の向こうは、山まで広がる大きな平地が、半ば耕作放棄された農地となっています。ゆるやかに弧を描く浜に合わせて、道や家々を並行に重ねたような、地形に素直な集落でした。
四方を海に囲まれた小さな島だから、漁業の島と勝手に思い込んでいましたが、実は、集落の裏の平地を利用して、江戸時代からさとうきび栽培を主産業とした農業の島です。今は、自由化による砂糖価格の下落と交通の便の悪さからか、さとうきび畑は放棄されつつある印象で、肉牛、特に子牛の飼育が中心になっています。
現在の人口は100人余り。昭和30年には、10倍近い996人の住民を抱えていました。泊めていただいた民宿「みどり」のお母さんは、集落唯一の与路小中学校で、長く学校給食の仕事をされていたため、小学校の児童数をそらんじていました。平成27年の児童数は3人ですが、遡れば、昭和63年には30人(昭和60年の人口は236人)、そして、お母さんが仕事に就いた昭和42年には315人(昭和40年の人口は698人)いたそうです。
薩摩藩の時代から明治時代まで、奄美諸島のさとうきびは、搾取の対象となり、農民に過酷な生活を強いましたが、昭和30年にそれだけの人口を養うことができたのは、さとうきびを主体とした島の農業の地力でしょう。
離島の奄美大島から、小さなフェリーに乗り換えないと行けない離島の離島のような場所ですが、海が交通の主流だった時代には、奄美大島から徳之島に向かう船の中継地であり、絶海の孤島だった訳でもありません。琉球王朝で編纂された16世紀の歌謡集「おもろそうし」にも名が現れ、250年前の堤防工事の跡も残ります。そして、与路小学校の創立は明治12年。維新後の明治5年に発布された学制により、日本に近代的な教育制度が生まれてから7年で、この南の小島の地に小学校ができた事実も、かつての島の地位を物語るようです。
今、訪れるのも簡単ではない島に、ノエビア化粧品が、トカラ列島付近の海水を利用した製品を開発するために研究施設を設け、その縁で、集落に、都会の小中学生の留学を受け入れるグリーンハウスを開設していました。4、5名程度としても、子供の減少に悩む小さな島にとっての大きな一歩となる企業の取組みです。
そうそう、集落歩きの途中お話をしたもう1軒の民宿のおばあちゃんの話では、以前は、ダイビング客が多くて、1日70万円を稼いだことがあったそうです。今は、若い人がダイビングをしなくなり、その熱気も消えたとのこと。薩摩藩にさとうきび栽培を強いられた昔から、島は、外の世界の都合に振り回され続けています。
交通
名瀬中心街にある「しまバス本社前」から古仁屋行きバスで70分(1日10本程度)、古仁屋海の駅で下車。
古仁屋海の駅に接する古仁屋港から船で50-100分(1日1-2本)、与路港下車。
宿泊施設のリスト
与路島の宿泊施設
参考文献
"日本歴史地名大系 (47) 鹿児島県の地名"(平凡社,1998)
"角川日本地名大辞典 46 鹿児島県"(「角川日本地名大辞典」編纂委員会,角川書店,1983)
"鹿児島県の歴史散歩"(鹿児島県高等学校歴史部会,山川出版社,2005)
"郷土資料事典 鹿児島県"(人文社,1998)
"島嶼大辞典"(日外アソシエーツ,1991)
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与路島 集落の遠景
与路島 防潮林
与路島 浜通り
与路島 メインストリート
与路島 小学校
与路島 木陰
与路島 夜明け - ハンミャ島、請島、加計呂麻島を望む
Photo by Daigo Ishii