ジェフリー・バワの建築:
カンダラマホテル - 1
(カンダラマ、スリランカ)

スリランカを代表する建築家、ジェフリー・バワの代表作の一つが、このカンダラマホテルです。乾燥地帯の南端、ダンブッラから森の中を進むと緑に覆われたホテルが現れます。

ホテルの話が来た時、ディベロッパーの用意した場所を気に入らなかったバワが見つけたのが、小山を背にしてタンク(潅漑池)を望む、このカンダラマの地でした。遠く地平線のあたりに、シギリヤの岩山がかすかに浮かぶものの、強い風景ではありません。スリランカの内陸部の、優れた「地」のランドスケーブです。バワ自身は、この場所のことを、mysteryとsuspenseと語っていたようですが、僕には、人工物のない、穏やかで静かな風景こそが、今の時代には、最上の贅沢であり、極上の時間だと映りました。

ホテルは、小山に沿って、付かず離れずの絶妙な距離を取りながら、1キロ近くにわたって、細長く、線状に伸びています。

建物のつくりは、鉄筋コンクリートの柱と梁を単純に組み立てただけです。基本は、東京あたりに、一昔前につくられた鉄筋コンクリートの小学校と、大差ありません。意外でした。

それなのに、これだけ魅力的な建築となっているのは、建築自身を、もう一つのランドスケーブとしてデザインしたような絶妙な配置と、つなぎの空間であるオープンスペースの豊かさ、そして、外観を覆う旺盛な緑ゆえです。 限られたボキャブラリーでも、特別な世界を創り出せることを示した建築です。

一本道のような歩廊に沿って、ホテルのすべての機能が並んでいます。西端にあるブールから、客室棟(Dambulla Wing)、メインエリア、再び客室棟(Sigiriya Wing)を経て、東端のスバまで、この歩廊を歩くと、自然のランドスケープに対する、もう一つのランドスケープ、ホテルのランドスケープを体験することになります。

地形に付かず離れず、歩廊は、ときに、宙を飛ぶブリッジや、岩山をうがったトンネルに変わります。そして、階段と出会う場所や、機能の切り替わるところなど、要所要所で、通路は大きくふくらみ、そこが、オープンスペースとなって行きます。余白のようなオープンスペースが、ホテルの面積の大半を占めるのですから、なんとも贅沢なこと。

広々としたオープンスペースに、ぽつんと椅子が置かれています。腰掛けると、正面のタンクの風景と向かい合います。背中にある小山の木々の気配に守られ、通り抜ける風に吹かれながら、茫漠とした風景と静かに対話していると、劇的でないことに、かえって、日常の雑念が洗われます。

緑に覆われ、対岸から見れば、おそらく、自然と一体化したように見えるだろう建築ですが、それでも、この手つかずの自然の中に建設することに対して、いろいろな批判があったそうです。敷地内にある古い僧院の境内跡への影響を懸念したダンブッラ寺院の僧の抗議、タンク(灌漑池)の水に影響を与えるとの環境保護主義者の批判などです。それへの対応で、配置を変更し、給排水、外観などにもいっそうの配慮をしたそうです。

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交通
ダンブッラから車で10分。

リンク
カンダラマホテル

参考文献
Geoffrey Bawa the Complete Works (David Robson, Thames & Hudson, 2002)

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カンダラマホテル (1994) - ホテルから見るタンクの風景

カンダラマホテル (1994) - 外観とメインエリア

        Photo by Daigo Ishii